「仕事内容や労働時間に対して給与が少ない」「サービス残業を強制される」などの状況にある場合は、やりがい搾取を疑うことが大切です。やりがい搾取とは、ブラック企業とともに世に知られることになった言葉です。やりがいを引き合いに出して不当な条件で働かせたり、労働者の権利を認めないことを指します。本記事では、やりがい搾取の定義や起きる背景、対処法などについて詳しく解説します。
やりがい搾取とは
そもそも「やりがい」とは、仕事や業務から得られる充実感や達成感などのことです。やりがい搾取とは、やりがいを引き合いに出して十分な給与を支給しなかったり、長時間労働を強制したりすることを指します。
やりがい搾取が起きる背景
やりがい搾取が起きる原因は企業によって異なりますが、主に以下のような背景がみられます。
やりがいを至上とする企業方針
やりがいを至上とする企業方針の場合、やりがい搾取が横行しています。やりがい搾取の自覚がなく、他の社員にも同じ対応をとるため、誰かが声をあげなければその状況は続くでしょう。また、企業理念やミッションなどで「お客様第一主義」や「身を犠牲にした社会貢献」などを掲げている場合、それを引き合いに出して、やりがい搾取を当たり前とするケースもみられます。企業理念やミッションの内容は法律を遵守したうえで成り立つものであるため、やりがい搾取をしてもよい理由にはなりません。
評価を金銭的な報酬に反映しない
社員の実績を金銭的な報酬に反映しない企業では、やりがい搾取が横行している傾向にあります。社員が大きな実績を挙げても、ねぎらいの言葉をかけるだけで金銭的な報酬に反映させないケースが該当します。上司から褒められることを名誉と感じるように教育し、報酬に対する不満の声が出ないように仕向けることもあります。
使い捨ての考え方が定着している
従業員は育てるものではなく、退職しても次の人材を探せばいいという考えが定着していると、やりがい搾取が横行する傾向にあります。やりがい搾取によって人件費を抑えて利益を獲得し、従業員が退職すれば新たに採用するというサイクルを繰り返すため、社内に優秀な人材がほとんどいません。チームワーク力も低いことで特定の従業員に大きな負担がかかって退職し、空いた席に新たに採用した人物が座るという悪循環が生じます。
やりがい搾取の判断基準は?
以下のいずれかの条件に当てはまる場合、やりがい搾取に該当する可能性があります。
- 仕事終了後の飲み会やスポーツ大会に参加しなかった従業員の評価を下げた
- 残業代を支払わない
- ボランティアへの強制参加(善意による労働の対価を雇用主だけが利益を受ける)
- インターンシップを名目として従業員と同等の業務を強いる
やりがい搾取を防ぐ方法
やりがい搾取は、会社側が気づいていないケースもあることから、単に会社の体制を見直すだけでは解消できません。一時的に改善されたとしても、以前と同じ状況に戻ってしまう恐れがあります。やりがい搾取を防ぐためには、次のポイントを押さえる必要があります。
経営者と従業員の意識改革
やりがい搾取を防ぐためには、経営者と従業員の両方の意識改革が必要です。経営者がやりがい搾取を自覚し、社内体制を見直して改善に取り組んだとしても、現場の従業員の意識改革ができなければやりがい搾取はなくなりません。やりがいを押しつけない、やりがいを理由に自らサービス残業をしない、正当な評価を求めるなど、経営者と従業員の双方がやりがい搾取をなくすように意識改革することが大切です。
適切な労務管理
やりがい搾取は、給与や残業代の未払い、長時間労働につながりやすいため、適切な労務管理によって予防できる可能性があります。出退勤記録を残すのはもちろん、離職や欠勤が多い部署を調べて定期的に人事面談を行うなどして、やりがい搾取が起きている実態を調査しましょう。
定期的な面談の実施
直属の上司だけではなく、さらに上の上司と従業員が定期的に面談することで、やりがい搾取が起きているかどうかを確認できます。また、従業員の実績が給与や賞与に反映されているか確認することも大切です。
相談窓口の設置
やりがい搾取は上司・部下の関係で起こりやすいため、部下が誰にも相談できずに孤立するケースがあります。そのため、人事や総務による相談窓口を設け、やりがい搾取の現状を会社に伝える方法を確保しなければなりません。
しかし、従業員にとっては相談窓口が最後の砦のため、適切に対応されなければ労働基準監督署へ相談すべきといえます。企業としては、社内の相談窓口へ通報があった段階で、相談に対し適切に対応することが大切です。
やりがい搾取の問題点
そもそも、やりがい搾取にはどのような問題があるのか詳しく解説します。
従業員の心身に大きな負担がかかる
やりがい搾取は自身の努力が報酬に反映されないため、心身に大きな負担がかかります。また、長時間労働が常態化する原因でもあるため、いわゆる過労死ラインを超えてしまいやすくなります。そうなれば過労死やうつ病などのリスクが高まり、労災事故につながりかねません。
企業の評判に悪影響が及ぶ
やりがい搾取が横行していることが外部に漏れると、企業の評判に悪影響が及びます。転職サイトでは、実際に働いた人の口コミが投稿されているため、やりがい搾取の実態が世間に知れ渡るのは時間の問題です。
やりがい搾取の具体例
やりがい搾取に気づけず、声を挙げられない方は少なくありません。また、企業側も自覚なくやりがい搾取をしている場合があります。やりがい搾取の具体例を3つ紹介します。
残業代の未払い
残業代の未払いは、業務遂行の対価を支払っていないことを指します。働いたのに報酬を得られなかった場合に従業員が声を挙げないのは、上司がやりがいを引き合いに出していることが理由の可能性があります。
最低賃金を下回る
やりがいがあることを理由に、最低賃金を下回る賃金で労働させることは違法行為です。最低賃金は地域ごとに定められており、定期的に見直されています。賞与や時間外割増賃金、通勤手当などは最低賃金の対象外となるため注意が必要です。
有給休暇を取得できない
有給休暇の取得を諦めさせようとする行為は、やりがい搾取に該当します。合理的な理由がなければ、有給休暇の取得は拒否できません。
まとめ
やりがい搾取は、やりがいを引き合いに出して報酬以上の働きやボランティアへの参加などを強制する行為です。雇用主と労働者のいずれもやりがい搾取に気づいていないケースもあります。そのままの状況を続けると、従業員が心身の調子を崩したり、会社の評判が悪くなったりするため、早急な対策が必要です。今回解説した内容を参考に、やりがい搾取の対策・防止に努めましょう。