目次
- エンタープライズ向けのインサイドセールスで必要なスキル
- 職種ならではの難しさ
- 職種ならではの面白さ・やりがい
- 転職難易度が高いとされる理由
- 得られるスキル・キャリアパス
- この職種に向いている人
- 転職者インタビュー
「大規模企業向けの営業は難しそう」
そう感じる営業経験者の方は多いでしょう。実際、担当する企業が大きくなるほど、意思決定に関わるステークホルダーが増え、商談の規模やプロセスも複雑になります。そのため「自分のキャリアで通用するのか」と不安になるのは自然なことです。
こうした課題に挑戦する営業ポジションの一つが、エンタープライズ顧客向けインサイドセールスです。商談規模や関係構築の難易度も高いことから、経験者の間でも注目されるポジションであり、成長機会が豊富な職種といえます。
そこで今回は、自身も大手SaaSでセールス責任者としての経験を持ちながら、求職者のインサイドセールスへの支援実績も豊富なIzulのコンサルタント天野が、この職種の特徴や求められるスキル、転職成功のポイントを解説していきます。後半パートでは、天野が支援して実際にこの職種へ転職した方へのインタビューを通じて、よりリアルな転職者の声もお届けします。
エンタープライズ向けのインサイドセールスで必要なスキル
大切なことは、徹底したリサーチ力と仮説構築力です。ただ顧客企業の基本情報を調べるだけでは不十分で、その業界が抱える構造的な堅いや競合環境の変化まで深堀りし、さらに担当企業が直面している可能性のある、経営上の課題を仮説として整理する必要があります。
また、エンタープライズ企業は意思決定に関わる部署や階層が多岐にわたるため、現場担当者から経営層まで、相手の立場に応じて会話の内容を変える柔軟さも求められます。

成果を上げるためには、他の営業職以上に「工夫」と「準備」の質が問われます。前述のような準備があってこそ、初回の接点から有意義な提案に繋げることができるからです。
さらに取引成立までのリードタイムが長いことも特徴的で、単発的なアプローチに終始するのではなく、複数回の接点を通じて関係性を温めていくナーチャリング力も欠かせないです。
こうしたように、さまざまなスキルが複合的に必要になっており難易度の高い職種と言えます。
職種ならではの難しさ
難しい点はさまざまありますが、業界や顧客企業の全体像を常に把握し、真のニーズを掘り起こす力を問われる点は、この職種特有の大きな難しさと言えるでしょう。
エンタープライズ向けのインサイドセールスでは、案件ごとの規模が大きく、一つ失注してしまうと事業全体への影響も非常に大きいです。エンタープライズ企業に明確な定義はありませんが、日本においては中小企業が99%を占めるといわれており、残り1%程度がエンタープライズ企業に該当します。つまり顧客数も非常に少ないため、失注後に短期的に数を積み上げてリカバリーすることも難しく、長期的な信頼構築を前提にした活動が求められます。

意思決定に至るまでのリードタイムが半年から1年以上に及ぶケースも多く、成果がすぐに見えにくい点も特徴です。さらに、顧客の課題は単なる業務改善ではなく、事業戦略や組織全体に関わるものが多いため、表面的な情報に基づいた提案は容易に見抜かれてしまうことも難しい点の一つです。
また、インサイドセールスとしてお話をしたお客様が、サービス導入の推進者や決裁者であることは限りなく少ないと思います。目の前の方の悩みを解決していきながら、フィールドセールスと協力をしながら様々な経路でキーマンを探していく営業はすごく難易度が高いです。
職種ならではの面白さ・やりがい
自分のアプローチや提案が大企業の意思決定や新しいプロジェクトの立ち上げに直結するなど、顧客企業の事業にダイレクトに影響を与えられる実感を持てる点は、この仕事ならではの大きな魅力です。
自分の関わりが顧客の事業に直接影響を与えている、という実感を得られるのは非常にやりがいのあるポイントです。

また、経営層や部門長といった上位レイヤーの方々とお話しする機会が多いので、自分自身の視座や思考のレベルが自然と引き上げられます。単なる営業担当というより、「ビジネスパートナー」として信頼していただけるようになることが、この職種ならではの面白さだと感じています。
転職難易度が高いとされる理由
エンタープライズ顧客を相手にする場合、関わるステークホルダーが多く、意思決定までのリードタイムも長期にわたります。そのため、高いレベルでの調整力や論理的な営業スキルを求められます。
こうした点から「挑戦のハードルが高い」と言われる職種ですが、その分だけ得られる経験や成長の幅も大きいことが特徴です。

こうした理由で、採用においても候補者の経験やスキルがより厳しく評価される傾向にあります。例えば、BtoB法人営業で中堅から大企業を担当した経験や、無形商材を扱いながら経営課題にアプローチしてきた経験を持つ方は比較的高く評価されやすいです。
ただし、論理的思考力や抽象度の高いコミュニケーション力、さらに学習意欲や成長意欲をしっかり示せれば、ポテンシャルを評価してもらえる余地は十分にあります。
得られるスキル・キャリアパス
どの企業にいっても強みとして評価されるようなスキルが身につきます。例えば顧客企業を深く調べて課題を仮説立てするリサーチ力や、経営層に向けて高いレベルで提案する力。さらに複数の部門やステークホルダーを巻き込みながら進める調整力や、長期的なパイプラインを戦略的にマネジメントする力も身につきます。
キャリアパスとしては、フィールドセールス、特にエンタープライズ領域のアカウントエグゼクティブへのステップアップが代表的です。また、大手顧客を担当するカスタマーサクセスや、営業組織を率いるセールスマネージャーなど、リーダーポジションへ進む道も開けます。また、インサイドセールスとしての専門性を高めていくことで、部門全体の戦略立案や企画業務を行うポジションへの道も考えられます。

この仕事を通じて培えるのは、市場価値の高いスキルばかり。経験を積めば積むほど、市場価値が高まり、挑戦できる役割の幅が広がっていくことが非常に大きな魅力点だと思っています。
この職種に向いている人
これまで法人営業やカスタマーサクセス、コンサルタント、プロジェクトマネージャーとして、顧客課題に深く関わりながら複雑な調整を経験してきた方は非常に向いています。また個人営業の場合でも、不動産売買仲介やウエディングプランナーなど、ナーチャリングに重点が置かれるようなスタイルのセールス経験がある方にも向いている可能性が高いです。
特に顧客の経営課題に直面した経験や、抽象度の高い課題を整理して解決策を導いた経験を持つ方には、強い適性があります。

今後のキャリア志向として、中長期的な視点で成果を追いたい方や、顧客の事業戦略レベルに踏み込んで仕事をしたい方にも非常に合っていると思います。さらに、社内外のリソースを巻き込みながら成果を最大化していくような役割に挑戦したい方にとっては、大きなやりがいを感じられる職種です。
転職者インタビュー
ここからは、実際に天野がご支援させていただいてエンタープライズ向けのインサイドセールスに転職された、Tさんへのインタビューをお届けします。転職活動の様子や、実際に働いてみての感想もお聞きしたので、是非参考にしていただければと思います。
自分のやりたいことに近付けるのか不安になりながら進めていた

―まず簡単に自己紹介をお願いします。

現職はSaaS企業でインサイドセールスを担当しており、インバウンドからアウトバウンドまで幅広く携わっています。前職は出版社の営業、その前は空港ラウンジで接客をしていました。
―今回転職活動を始めたきっかけを教えてください。

出版社では「出版を通じて企業課題を解決する」という営業をしていましたが、本をつくるところで関与が終わってしまい、継続的に顧客伴走できないことに課題を感じていました。単発の提案ではなく、企業と長期的に関わりながら課題解決に取り組みたいと考え、LTVを意識した事業に携われるSaaS業界への転職を決意しました。
―Izulとの出会いは天野からのスカウトだったんですよね。他の転職エージェントともお話されていたとお聞きしていますが、最終的に天野に支援を託してくださった理由は何でしたか?

大手エージェントも利用していましたが、面談は1回きりで、紹介される求人も条件面だけを見て選ばれている印象でした。「これで本当に自分がやりたいことに近づけるのか」「会社の雰囲気と合うのか」と不安を感じていて、ちょうど税理士法人を受けながらも違和感を抱えていたんです。
そんな状況を天野さんに相談すると、「それは本当にTさんがやりたいことなのか」「大手エージェントの人の見せ方は合っていないのでは」と率直に指摘してくれました。良い面も悪い面も隠さず伝えてくれる姿勢に信頼を感じ、「この人なら任せられる」と思ったのが決め手でした。

Tさんが行っていた仕事は、経営者に対してマーケティング施策のために自費出版で本を出版しないか提案する営業。完全なアウトバウンド営業であり、自費出版での依頼のため難易度も相当に高い仕事です。仕事の概要を聞いただけでも、Tさん自身がたくさん努力をされてきたことは伝わってきましたし、今受けている企業がぴったりな仕事だ、とは思えなかったので正直にお伝えさせていただきました。
Tさんには、諦めないで行動し続ける力や、まっさらな状態から仮説を持ってアプローチする力があるなと感じたので、私からはインサイドセールスをご提案させていただいたんです。Tさん自身「選択肢を増やしていきたい」という志向を持っていて、成長に対する意欲も高い方だったので、より成長に向けて経験を活かせるポジションにいってほしいという思いを持っていました。
表面的な経歴に留まらない自己分析で自分を再発見

―天野の正面からの指摘を信頼してくださったんですね。Izulのご支援は基本的に自己分析からスタートしていきますが、いかがでしたか?

これまでの自己分析は「過去に何をしてきたか」「どんなことに興味を持ったか」を振り返るだけのものが多かったと思います。でも天野さんの場合は、「なぜそれをやりたいと思ったのか」「その時に大事にしていた価値観は何なのか」といった深い部分まで問いかけてくれました。
そのおかげで、自分でも気づいていなかった共通点や、興味を持って挑戦してきた背景が見えてきたんです。表面的な経歴の棚卸しにとどまらず、中身までしっかり見てもらえたのは、今までの自己分析とは大きく異なる点でした。

仕事の棚卸しでは「インサイドセールスとしての適性が見える」ようにアピールポイントを作り込みたかったので、かなり深堀りしていきましたよね。Tさんは行動し続けられる方だったために、伝え方を間違えると逆に「ただ行動量を担保できる人」になってしまう可能性がありました。
行動量を担保できることはとても重要な要素ではあるのですが、特にエンタープライズ向けのインサイドセールスのポジションだと、それだけではアピールとしては弱いです。これは、営業経験のある方であれば結構陥ってしまいやすい部分かなと思います。
そこで、量にフォーカスを当てるのではなく、営業プロセスを分解してそれぞれのプロセスにおける課題や行った打ち手を整理していったんです。営業を行ううえでどんな「工夫」と「準備」があったのか、そこに焦点が当たるようにアピールポイントを作り込んでいきました。最終的には「新規営業でどれだけ成果を発揮してきたのか」を強みとして打ち出しましたね。
―面接対策はいかがでしたか?

天野さんがIzulのいろんな方を巻き込みながら繰り返し面接練習をしてくださって、かなりの回数を重ねたと思います。私はアドリブが苦手なので、自分の言葉で話せるようになるまで徹底的に練習しました。その過程で、天野さんが「この言い方のほうが自然に伝わるよ」と言葉を調整してくださり、最終的には私に合った表現で、面接官にも評価される内容に仕上げてもらえたのが大きかったです。

面接対策には一番時間をかけましたね。数十時間はやったと思います。私が入社して最初に担当したのがTさんだったので、時間も注げましたし、正直これほど注ぎ込んだ方はいないというほど思い出深いです(笑)。
今回掴んだチャンスから、オールラウンダーに成長したい

―現職のお話も伺いたいのですが、現在のインサイドセールスの仕事内容を教えていただけますか?

インバウンド対応に加えて、既存のハウスリストで休眠している顧客へのアウトバウンド、リスト作成からゼロベースでの開拓も進めています。確度の高いアポイントをフィールドセールスに渡す役割ですね。
前職では「とにかく打ち合わせの時間を取れればよい」という形でアポイントを獲得していましたが、今はフィールドセールスに渡す前提があるため、質の高さが求められるのでその点は難しさや苦労を感じています。
最初の架電でどれだけ情報を引き出せるか、そして自社の価値を理解してもらった上で有効なアポイントにつなげられるかが非常に重要になります。関係性がまだ築けていない段階でヒアリングを進める難しさは、入社して特に感じた部分です。
―現在追っているKPIはどのようなものなのでしょうか?

インサイドセールスチーム全体のKPIはインバウンド・アウトバウンド合計毎月数百件単位でのアポ獲得がKPIです。個人では1日の架電数と、チーム全体のKPI達成に向け、それぞれアポ獲得数もKPIとして追っています。
転職先は個人ごとの達成度も管理しますが、チームプレイで数字を追っていく文化が強いんです。例えばアポイントがキャンセルになれば全体の数字に響くので、「今月1件減った分は来月取り返そう」といった具合に、チーム全体で補い合いながら目標達成を目指しています。
―インサイドセールスは、数分の電話で商談レベルの提案やヒアリングをしなければならない点が難しいと思います。温度感の高いアポイントを取るうえで、コツをつかんだ部分や現在の取り組みはありますか。

コツとして大きいのは「事例を知ること」だと思います。入社直後に天野さんからも言われましたが、実際に商材を導入して頂いたお客様がどんな課題を抱えていたのか、導入後にどう使っているのかを具体的に理解していると、それを踏まえて「同じようなお悩みはありませんか」と聞けるんです。そうすると「確かに困っている」と反応をいただけるケースが増えます。
ですので、「どんなお客様が利用しているのか」「その方々が当初どこに困っていたのか」を深く知ることが重要だと感じていますし、今も事例の勉強は欠かせないと考えています。
―プロダクトのキャッチアップについてはどう感じられましたか?

正直かなり難しく、まだ理解できていない部分も多いと感じています。インサイドセールスとして電話で伝えられるのはサービスの一部、いわば表面的な部分に限られます。その範囲は把握できていますが、直近のシステム追加や実際の活用方法、画面の細かい動きまでは追いつけていないのが現状です。
そのため、空いた時間にデモ画面を触ったり、フィールドセールスの商談録画やカスタマーサクセスがお客様とやり取りする様子を見たりして、継続的に学んでいます。常にキャッチアップを続ける必要がある点は難しいところだと感じています。
―最後に、現職のインサイドセールスでの経験を踏まえて、将来的にはどのようなキャリアを描いているか教えてください

まずはインサイドセールスとしてしっかり結果を出していきたいと思っています。会社としても今後人員が増えていくフェーズなので、育成やマネジメントにも携わっていけたら嬉しいですね。
その一方で、ずっとインサイドセールス領域だけでキャリアを築くのではなく、他部署も経験したいと考えています。部署が変わればお客様との関わり方も変わりますし、幅広い経験を積むことでオールラウンダーとして成長できると思うからです。最終的には会社のいろいろな部門を理解できる人材になりたいです。
―転職活動時のお話から現職でのお話まで、さまざま聞かせていただきありがとうございました!現職での活躍、応援しています!

