転職において、収入は重要な判断基準のひとつです。しかし、近年の目まぐるしい世界情勢の変化により、賃金への影響を懸念する方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、2024年の各企業の賃上げ状況や今後の展望、賃上げに関する税制を詳しく解説しています。賃上げについて知りたい方はぜひ参考にしてください。
2024年の賃上げ事情
近年、コロナ禍脱却による経済活動正常化を受けて、2023年には約30年ぶりの賃上げが実現しました。2024年も「日本労働組合総連合会(連合)」では前年を上回る賃上げを目指して、春闘方針を「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め 5%以上の賃上げ」と定めています。これにより、今春にもさまざまな大手企業で賃上げが発表されました。多くのシンクタンクでも2024年の賃上げ予測を「3.7%〜3.85%」としており、今年も前年と同水準かそれを上回る賃上げ率が実現する見通しです。
2024年における各業界・企業の賃上げ状況
2024年もさまざまな業界で大手企業の賃上げが発表されています。たとえば大手自動車メーカーの「ホンダ」は、1989年以降で最大となる月額21,500円の賃上げを発表しました。また、食品業界の「サントリーホールディングス」でも、直近20年で最大となる月額13,000円のベースアップを妥結しています。そのほかの企業の賃上げ状況については以下のとおりです。
<金融・生命保険業界>
みずほフィナンシャルグループ:
人事制度の改定や物価高対策の補給金など合わせて、総額で7%超えの賃上げ。ベースアップの賃上げ率は3%。また、2024年度入社から新卒行員の初任給を引き上げる。大卒で55,000円増額し、26万円になる。
三井住友フィナンシャルグループ:
三井住友銀行は給与・賞与増額や研修充実などで実質7%程度の賃上げに相当する処遇改善を2024年度に実施する方針。
野村ホールディングス:
2024年度入社から新卒社員の初任給を引き上げる。20,000円増額の265,000円にする。また2024年度に入社3年目までの若手社員に対して平均16%の賃上げを行う。
<自動車・輸送機器業界>
トヨタ自動車:
職種や階級ごとに異なるが、最大で月28,440円の賃上げ、満額回答。一時金は過去最高の月給7.6か月分。
スズキ:
平均10%以上の賃上げ率。また、2024年度入社から新卒社員の初任給を引き上げる。31,000円増額し、大学卒で251,000円(14.1%増)、大学院卒で273,000円(12.8%増)にする。初任給の増額に伴い全体の賃金カーブを見直す。子育て支援や通勤などの手当も増やす。
SUBARU:
ベースアップと定期昇給を合わせた総額で月18,300円の賃上げ、満額回答。賃上げ率は5%超。年間の一時金も要求通りの6カ月分。
<食料品・飲料業界>
ロッテ:
全社員に対し、平均19,077円の賃上げ。賃上げ率は平均6.64%。ベースアップは実施せず、賃上げ幅は従業員の等級に応じて定める。再雇用者についても10%程度賃上げする。
アサヒグループホールディングス:
アサヒビールは組合員約1,600人に対し、ベースアップと定期昇給を合わせて約6%の賃上げ、満額回答。うち、ベースアップは月13,500円、32歳以下の社員を対象に増額し最大で月17,000円。
キリンホールディングス:
キリンHDの約1,800人に対し、ベースアップと賃金改定分を合わせて、約7.5%の賃上げ。ベースアップで平均月13,000円の賃上げ、満額回答。若手社員には最大2万円のベースアップを実施。また、2024年度入社から新卒社員の初任給を引き上げる。28,000円増額し、大卒で270,000円にする。
出典:2024年春闘賃上げ動向まとめ | 過去最高額の企業多数。若手や高度人材への昇給が目立つ
賃上げにおける過去の推移と今後の展望
ここでは、2023年までの賃上げの推移と、今後の展望について解説します。
2023年までの推移
日本ではバブル崩壊によるデフレの影響で賃上げ率も低下し続け、2003年には1.63%にまで下落しました。しかし、2022年からのインフレで回復の兆しが見え始め、2023年には連合によって「賃上げ率5%程度」との高い要求が行われました。その結果賃上げが進み、厚生労働省が発表した「民間主要企業における春季賃上げ状況の推移」によると、2022年には平均妥結額が5,854円であったのに対し、翌年2023年には1,044円増加して6,898円となりました。
賃上げに関する今後の展望
コロナ禍からの経済活動正常化やロシアのウクライナ侵攻などの影響を受け、近年では世界中でインフレが発生しています。さらに円安が進み、日本の物価は年々上昇が続いているのが現状です。物価の上昇に伴い従業員の生活に影響が出ているため、連合は高い賃上げ率を要求しています。公益社団法人日本経済研究センターでは消費者物価上昇率は2024年度で2.18%、2025年度で1.66%と予想しており、今後も賃上げは続く見込みです。ただし、2023年・2024年と2年連続でベースアップを決定した企業も多く、来年以降は賃上げ率はやや落ち着くと考えられます。
賃上げの概要
今後の動向を予測するには、賃上げについて正しく理解しておくことが大切です。ここでは、賃上げの概要について詳しく解説します。
賃上げの対象となる賃金
賃上げの対象となるのは、毎月支払われる月例賃金のうち「基本給」のみです。月例賃金は基本給と諸手当で構成されています。役職手当や通勤手当といった手当や賞与が増額となっても、基本給に変動がなければ賃上げには該当しません。
賃上げの種類
賃上げには、ベースアップと定期昇給の2種類があります。ベースアップは基本給の底上げで、ベアと呼ばれることもあります。インフレによって物価と賃金の水準が釣り合わなくなった場合や、賃金が世間の相場より低いと判断された場合の実施が一般的です。一方で定期昇給とは、従業員の勤続年数や査定による定期的な昇給を指します。すべての従業員が同じ賃上げ率で昇給するベースアップと異なり、企業や従業員による賃上げ額の違いがが特徴です。
中小企業向けの賃上げ促進税制について
インフレによる物価上昇を受けて、政府は2022年より賃上げ促進税制を開始しました。賃上げ促進税制の強化によって、今後中小企業の賃上げ加速が予想されています。ここでは、中小企業向けの賃上げ促進税制について解説します。
賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制とは、前年より賃上げを行った企業が法人税などの税額控除を受けられる制度です。平成25年度より所得拡大促進税制として施行されたのち、2022年4月に賃上げ促進税制に改められ、税額控除率がさらに上昇しました。中小企業の場合は、青色申告書を提出する企業のうち、以下のいずれかに該当する企業が対象となります。
(1)①資本金または出資金の額が1億円以下の法人
②資本または出資を有しない法人で、常時使用従業員数が1,000名以下の法人
(2)協同組合等
賃上げ促進税制の適用要件
中小企業においては、従業員に対する雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増加した場合、法人税から増加額の15%が控除されます。さらに、2.5%以上増加した場合は15%上乗せして控除を受けられます。また、教育訓練費を前年より10%以上増額した場合、10%の控除が上乗せされます。これらの条件をすべて満たせば、最大で40%が控除可能です。
賃上げ促進税制の措置期間延長
令和4年度に創設された賃上げ促進税制は、令和6年度の税制改正においてさらに3年間の延長が決定し、適用要件も拡大しました。また、赤字によって税額控除額を控除しきれない場合、最大5年間の繰越控除が認められました。中小企業は賃上げが難しい場合が多いものの、今後は賃上げ促進税制の活用機会が増えるでしょう。
まとめ
この記事では、2024年の賃上げ状況について解説しました。約30年ぶりの賃上げが実施された2023年に引き続き、2024年も高い水準での賃上げが予想されています。実際、多くの大手企業では今春に賃上げを発表しました。令和6年度の賃上げ促進税制延長・拡充も受けて、今後も賃上げの傾向の継続が見込まれます。できるだけ賃金の高い企業に転職したい場合は、業界や企業の実情に詳しい転職エージェントの利用がおすすめです。Izulの転職エージェントでは、徹底的にヒアリングしたうえで、求職者の希望実現を目指す伴走型のサポートを実施しています。
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