転職活動をするうえで、応募先企業から支給される給与は気になるところです。求人票に記載されている金額と実際に受け取れる手取り金額には相違があるため、正確に理解しておくことが大切です。この記事では、手取りと額面の違いや基本給以外に支給される手当、控除される内容や計算方法について解説します。
手取りとは
手取りとは、実際に受け取る給与額のことです。正社員として勤めている場合、会社が定めた基本給に各種手当が加えられた合計の支給額から、社会保険料や税金を控除した金額が振り込まれます。給与明細では「差引支給額」として記載されており、これが「手取り額」にあたります。
額面とは
額面とは、会社から支払われる合計額のことです。基本給に各種手当を加え、社会保険料や税金を控除する前の金額を指します。給与明細には「総支給金額」と記載されます。
基本給以外に支給される手当
会社から基本給以外に支給される手当には複数の種類があり、会社の規定によって内容が異なります。ここでは、代表的な手当を6種類紹介します。
通勤手当
通勤手当には、自宅と会社を往復するための交通費が該当します。日々の通勤だけでなく、出張時の移動費なども通勤手当の一種に含まれます。
残業手当
残業手当はいわゆる残業代が該当します。会社が定める所定労働時間を超え、かつ1日8時間、週40時間という法定労働時間の範囲内であれば通常の賃金が支払われます。法定労働時間を超える残業の場合は、割増賃金が支払われることが一般的です。
役職手当
役職手当は、会社組織における役職者に支給される手当を指します。係長・課長・部長といった役職に就くと、担当する業務の幅が広がります。役職手当は責任の大きさに応じて支給されるものであり、役職が上がるほど手当額は大きくなるものと認識してください。
資格手当
資格手当とは、業務に活かせる資格を保有する従業員へ支給される手当です。資格の難易度や、業務に活かせる資格であるかどうかで、どのように反映するかが決まります。毎月支給される手当の他、合格報奨金として資格取得時のみ支給するケースもあります。
住宅手当
社員の負担を軽減するため住宅に関して支給される手当が、住宅手当です。アパートなど賃貸住宅の家賃補助や住宅ローンへの補助、社宅や社員寮の提供などが代表例に挙げられます。
家族手当
家族手当とは、配偶者や子どもを持つ社員に対して支給される手当のことです。家族構成や人数によって、支給される金額は異なります。扶養家族に対して支給される扶養手当と異なり、扶養家族の収入額を問わず支給されるケースが一般的です。
月収の額面から控除されるもの
ここでは、額面から控除される社会保険料や税金の内容について解説します。
健康保険料
健康保険料とは、公的な医療保険制度に加入するうえで控除される保険料です。病院で受診した際の医療費負担が3割になるほか、病気や業務外の怪我で働けない期間の生活保障や出産に関する給付を受けることができます。健康保険料の金額は額面から算出する標準報酬月額によって定められ、企業と従業員が折半して納める仕組みです。
厚生年金保険料
厚生年金保険料とは、いずれ年金として支給される保険料のことです。厚生年金保険の適用を受ける事業所に勤める70歳未満の人は、原則として全員が加入します。健康保険料と同じく、標準報酬月額をもとに保険料が算定され、企業と従業員が折半して負担する仕組みです。
介護保険料
介護保険料とは、介護保険制度のもととなる保険料です。社会全体で介護が必要な方を支援する仕組みであり、40歳以上64歳以下の従業員に対して支払い義務が課せられています。健康保険料や厚生年金保険料と同様に、標準報酬月額によって保険料が算定されます。
雇用保険料
雇用保険料は、失業手当や再就職手当、職業訓練給付などの支援サービスに用いられる保険料を指します。健康保険などと同じく、企業と従業員が折半して納める仕組みです。
所得税
所得税とは、所得額に応じて課せられる税金のことです。所得税額は前年の額面から算定され、毎月控除されます。実際の年収に応じて確定した所得税額と月々徴収された金額に差異がある場合は、年末調整で徴収または還付されます。
住民税
住民税とは、1月1日の時点で居住している都道府県や市区町村へ納める税金です。税率は自治体によって異なり、毎年6月から翌年5月まで12等分された金額が天引きされます。
月収の額面からおおよその手取りを計算する方法
ここまで支給される手当と控除される社会保険料・税金について紹介しました。内容がわかっていても、求人票の総支給額だけを見て手取り額を想像するのは難しいでしょう。ここでは、月収の額面からおおよその手取り額を計算する方法について説明します。
【計算式】額面×0.75〜0.85=手取り額
手取り額は、一般的に額面の75%から85%程度になるといわれています。例えば額面が25万円の場合、0.75を掛けると18万7,500円、0.85を掛けると21万2,500円となります。そのため、手取り額はおおよそ20万円前後だと想定できるでしょう。
手取りを増やすためのポイント
転職先の仕事に魅力を感じても、手取り額が低いために応募を諦めるという経験をした方もいるのではないでしょうか。少しでも手取り額を多くするためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。より多くの選択肢から転職先を選ぶためにも、手取り額を増やす方法について確認しておきましょう。
4月〜6月の残業時間に注意する
健康保険料や厚生年金保険料など、社会保険料の金額を算定するもとになるのが「標準報酬月額」です。標準報酬月額は、毎年4月から6月の給与額を元に算定されます。4月から6月の残業が多いと残業手当により額面が増えるため、社会保険料が高額になります。
一方で、標準報酬月額が低いほど将来受け取る年金額も低くなるという点がデメリットです。そのため、標準報酬月額をできるだけ低く抑えるというよりも、4月から6月だけ突出して残業が多くならないように注意が必要です。
年末調整の際に受けられる控除を把握する
概算で支払ってきた所得税を、年末に再計算するのが年末調整です。年末調整の際に生命保険料や地震保険料、配偶者控除や扶養控除などを申告することで、所得額から控除されます。年末調整により、住民税額や所得税額を抑えることが可能です。控除される項目を事前に把握しておき、忘れずに申告しましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、厚生年金などの公的年金とは別で給付を受けられる私的年金制度です。加入は任意で、掛金の全額が控除の対象になります。先述した年末調整で所得から控除されるため、翌年の所得税額・住民税額が減額されます。節税と将来の蓄えを両立できる方法として覚えておきましょう。
転職活動における手取り額の注意点
ここでは、手取り額や額面にまつわる注意点について解説します。転職での失敗を避けるためにも、しっかりと内容を把握しておきましょう。
希望給与や前職の年収は額面で答える
応募先の企業によっては、応募者が希望する給与額や、前職での給与額を参考にして給与額を決定します。この場合は、給与額は額面を指すことがほとんどです。企業が誤って手取り額を伝えていた場合、本来よりも低い給与額が設定されてしまいます。給与面でのミスマッチを避けるため、額面で答えることを心がけましょう。
求人票の給与額は額面が記載されている
求人票に記載されている給与額は、社会保険料や税金が差し引かれる前の額面に近い金額です。多少の手当が加えられる場合もありますが、記載されている金額から健康保険料や厚生年金保険料、所得税などが控除された手取り額が振り込まれます。
ここで気をつけるべきは、前職の手取り額と求人票の額面を比較してしまうことです。「今まで手取り18万円だったけど、求人に書いてある給与額は23万円だから月収が上がる」と思っていても、実際の手取り額は前職を下回る可能性があります。おおよその手取り額を知りたい場合は、求人票の給与額に先述した計算式を当てはめてみましょう。
まとめ
転職活動で応募先を選ぶ際うえで、給与額は非常に重要な要素です。手取りと額面の違いを正しく理解していないと、候補となり得る企業を除外してしまったり、入社後に後悔したりという事態を招く恐れがあります。人生において大きな選択である転職を成功させるためにも、手当や控除の内容を把握し、手取り額のシミュレーションを自ら実施できるようになりましょう。