給与の支払い形態は月給制や日給制が一般的ですが、中には1年間の給与をまとめて支払う「年俸制」も存在します。アスリートなどに多い給与形態ですが、近年では年俸制を導入している企業も少なくありません。今回は、年俸制の特徴やメリット・デメリット、知っておきたいよくあるトラブルから対処法まで詳しく解説します。
年俸制とは
年俸制とは、労働時間に関係なく労働者の成果や業績に応じて賃金を決定する制度です。年俸の支払い額は企業と従業員で話し合って決定し、合意した金額を1年単位で支給します。年俸を12分割して毎月支払う方法や、14分割して月々の支払いに加えて2回分をボーナス代わりに支給する方法があります。
年俸制であれば企業側は年間の人件費をあらかじめ把握できるため、経営計画の策定において有利になります。ここでは、年俸制と月給制、日給制の違いについて詳しく見ていきましょう。
月給制との違い
年俸制が1年単位で給与を決めるのに対し、月給制は毎月の基本給と手当を決めて最終的な支払い額を決定します。年俸制は従業員の成果や業績を重視しますが、月給制は勤続年数や年齢、スキルなどを重視することが一般的です。月給制は毎月の支給額が変動するため、年収をあらかじめ把握することはできません。
日給制との違い
年俸制は1年間の支払額を月々に分割して支払いますが、日給制は1日単位で給与を決めて出勤日数分の給与を支払います。また、年俸制は年間の支払額が決まっていますが、日給制は勤務日数に応じて支払い額が変動します。
年俸制のメリット
年俸制には、月給制にはないメリットがあります。自身に適しているかどうかを判断するために、年俸制のメリットについて詳しく見ていきましょう。
年度途中の減給がない
年俸制は1年間の給与の支払い額が事前に決まっており、年度途中の減給や昇給がありません。1年間の収入があらかじめわかっているため、家や自動車などのローンを組む際でも返済計画を立てやすいでしょう。
月給制よりも給与水準が高い傾向がある
年俸制は月給制と比べて給与水準が高い傾向にあります。必ずとはいえませんが、年俸制の企業に就職すれば高収入も期待できます。ただし、月給制よりも年俸制の方が給与水準が高い理由は、主に役員をはじめとした職種に採用されることが多いためです。
年俸制のデメリット
年俸制にはメリットだけではなくデメリットもあります。次のデメリットも踏まえて、自身に適しているかどうか考えましょう。
成果次第では翌年からの年俸が下がる
年俸制は成果や業績で給与が変動するため、成果次第では翌年の年俸が下がります。成果を出し続けることで変動なしか給与アップどちらかが期待できますが、プレッシャーに感じる方も多いでしょう。
成果が年度途中に反映されない
年俸制は、年度途中に給与が変動しません。これはメリットであると同時にデメリットでもあります。例えば、年度途中に会社に大きな影響を与える優れた成果を出しても、成果が給与に反映されるのは翌年以降となります。
年俸制についてよくある質問
年俸制を採用している企業は少ないため、年俸制における給与の扱いや税金の支払い額などを疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。ここでは、年俸制についてよくある質問に回答していきます。
欠勤控除は適用される?
欠勤控除とは、従業員が欠勤や早退、遅刻などで労働しなかった場合に給与から賃金を差し引くことです。年俸制の場合でも、欠勤控除は適用されます。ただし、給与から賃金を差し引くには、就業規則で定められている要件を満たしている必要があります。
年度途中に退職した場合の給与の扱いは?
月給制の場合は、年度途中で退職すると退職した月の翌月から支払いがなくなります。年俸制の場合は、年度途中で退職すると働いていない期間の給与は発生しません。賞与については、支給日の前に退職したとしても、在籍していた期間分は支払われます。ただし、就業規則や賃金規定などに「支給日前の退職は賞与の支払対象外」などと記載されている場合は、支払われることはありません。
税金の支払い額は月給制と異なる?
年俸制は、月給制と同じく厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料などの税金の支払いが発生します。ただし、税金の支払い額は年俸の受け取り方で異なります。
例えば、年俸を12分割で毎月受け取る場合と、毎月+賞与2回として受け取る場合で税金の支払い額が異なります。給与の場合は標準報酬月額、賞与の場合は標準賞与額で税額が計算されるためです。
年俸制で起こり得るトラブルと対処法
月給制の企業でのみ働いていた人が年俸制で働くようになると、さまざまな場面で予期せぬ事態に遭遇するでしょう。年俸制で起こり得るトラブルとその対処法について解説します。
残業代が支払われない
年俸制は1年間に支払う給与が決まっているため、残業代が発生しないケースもあります。年俸制であっても、所定労働時間を超えて残業した場合は、残業時間に応じた残業代が支払われます。ただし、固定残業代制度やみなし残業時間制を採用している場合は、年俸に残業代が含まれているため、契約書で確認しておくことが大切です。
年俸額が大幅に減額される
年俸制は成果主義のため、翌年の年俸が大幅に減額される可能性があります。大幅な減額に対処するには、同じ成果を出し続けるしかありません。年俸制には年功序列が採用されないことが多いため、給与の著しい変動がみられるケースがあると理解しておきましょう。
年俸額が年度途中で減額される
年俸額は年度途中で減額されることはありません。もし、減額する旨を通告された場合は、理由を確認しましょう。欠勤や早退、遅刻などがあった場合は、その分の賃金が給与から差し引かれます。それ以外の理由の場合は不当な減給の可能性があるため、担当者に異議を申し立てましょう。
まとめ
年俸制は1年間に受け取れる給与が決まっていますが、残業代は月給制と同様に発生します。固定残業代制度やみなし残業時間制を採用していることもあるため、事前に契約書を確認しておきましょう。年俸制は、主にハイクラス求人に採用されることが多い傾向にあります。年俸制で働くことになった場合は、その仕組みやメリット・デメリットなどについて理解しておきましょう。