フィードフォワードとは、人材育成の方法の一つです。これまで一般的だったフィードバックとは別の視点を持っているため、近年多くの企業で注目を集めています。この記事では、フィードフォワードの概要やメリット、導入までの手順について解説しています。新入社員や部下の育成に注力したい方はぜひ参考にしてください。
フィードフォワードとは
フィードフォワードの普及及び発展を目的として設立された一般社団法人フィードフォワードによると、フィードフォワードとは「現状にとらわれてしまいがちな部下や後輩、配偶者や子供に対して、コミュニケーションや観察を通して相手の状況を把握し、相手に起きている出来事やそれにともなって体験している感情を受け止めた上で、その人が自分のゴールに意識を向けて行動できるように促す技術のこと」と定義されています。過去や現在ではなく未来に焦点を合わせる点が特徴的で、前向きな姿勢や自主性の育成に役立つだけでなく、組織力の向上も期待できます。
参考:フィードフォワードについて|一般社団法人フィードフォワード協会
フィードバックとの違い
フィードフォワードでは未来に視点を向けるのに対し、フィードバックは過去や現在の結果に基づいて軌道修正を行う点に違いがあります。フィードバックではこれまでの行動に対する成果や課題点を指摘してもらい、改善につなげていく点が特徴的です。状況によっては自分のできなかった点ばかりに注目してしまう可能性があるため、慎重な進め方が求められます。
ティーンチング・コーチングとの違い
ティーチングは業務内容などを教えること、コーチングは対話を通して新たな気づきを導くことを指しますが、どちらも指導する側と指導を受ける側が明確に分かれています。一方、フィードフォワードでは立場を分けることはありません。未来に向けて対話することを目的としているため、上司や先輩であってもはっきりした答えを持っていない点が特徴的です。
フィードフォワードが注目される背景
フィードフォワードが注目されるようになった背景には、IT技術の進歩や経済のグローバル化などによって企業間の競争が激化していることが挙げられます。顧客のニーズが多様化したことで、企業はイノベーションの創出が求められるようになりました。また、フィードフォワードでは未来に視野を向けることから、自分の課題をポジティブに捉えやすくなります。そのため従業員の自己成長につながり、モチベーション向上や定着率アップが期待できます。
フィードフォワードを導入する目的
企業がフィードフォワードを導入する目的は、大きく分けて4種類あります。ここでは、それぞれの内容について具体的に解説します。
若手人材の育成
若手人材を育成する際、課題点ばかりを指摘しているとモチベーションの低下を招いて途中で離脱させてしまう恐れがあります。そこでフィードフォワードを取り入れることで、若手自らが積極的にアイデアや意見を出し合う環境を作りやすくなります。その結果、主体性を持って行動できる人材の育成につながるでしょう。
管理職の育成
フィードフォワードは若手人材の育成だけでなく、管理職の育成にも効果的です。管理職になると周りから指導される機会が減り、これまでの経験や考え方にとらわれやすくなる傾向にあります。しかしフィードフォワードを行うことで新しい視点を取り入れられるため、管理職に必要な「さまざまな立場の意見に耳を傾け、調整する能力」を養うことができます。
組織の結束力強化
フィードフォワードを導入することで、従業員が当事者意識を持って行動するようになるため、組織の結束力も自然と高くなります。未来志向の前向きな意見が飛び交うようになるため、職場の雰囲気が良くなる点もメリットです。また、上司は必要以上にアドバイスをする必要がなくなるため、意思決定やマネジメントなど重要な業務に集中しやすくなります。
ハラスメントの防止
従来の指導法であるフィードバックは上司や先輩による一方的な指導になりやすいことから、指導を受ける側がハラスメントと捉えてしまう可能性があります。しかし、双方が未来に向けて前向きに語り合うフィードフォワードであれば、高圧的な言動の抑制につながります。その結果、ハラスメントによるトラブル防止が期待できるでしょう。
フィードフォワードを導入するメリット
フィードフォワードを導入するメリットには、主に個人に関するものと組織全体に関するものがあります。ここでは、それぞれについて具体的に解説します。
個人の成長につながる
フィードフォワードでは上司や先輩が一方的に指導するのではなく、従業員が自分で考えながら今後の行動指針を立てていく点が特徴的です。そのため、課題に対して当事者意識を持ち、主体性を持って進んでいける人材に成長しやすくなります。部下に対する適切な接し方が自然と身につくことから、将来の管理職候補として育てやすい点もメリットの一つです。
組織全体の雰囲気が良くなる
フィードフォワードはできなかった点を指摘するのではなく、今後に向けた前向きな議論を行います。そのため、批判ではなく個性を尊重する風土が生まれやすくなり、組織全体の雰囲気改善につながります。また、立場に関係なく自分の意見を持って行動できるようになることから、業務効率や生産性の向上が期待できるでしょう。
フィードフォワードを導入する注意点は?
フィードフォワードはフィードバックやコーチングと比べると知名度が低いため、管理職側でも具体的な知識を持っていない可能性があります。実施する際は管理職向けに研修を行い、指導側のあるべき姿や正しい関わり方についての教育が必要です。また、フィードフォワードの導入によって従来の評価制度に影響を及ぼす場合もあるため、人事部門も巻き込んで全社的に対応することをおすすめします。
フィードフォワードを導入する流れ
ここでは、実際にフィードフォワードを導入する際の流れについて解説します。以下のステップを踏むことで、成果をより実感しやすくなるでしょう。
1:相手の許可を得る
フィードフォワードを実践する際は、まず相手の許可を得てから始めるようにしてください。まだフィードフォワードに慣れていない従業員も多く、いきなり対話を求めてもかえって混乱させてしまう恐れがあります。事前に内容を説明して承諾してもらうことで、相手も心の準備がしやすくなるでしょう。
2:事実を具体的に伝える
フィードフォワードで未来の行動指針を立てるためには、現在の状況を客観的に把握することが必要不可欠です。できるだけ抽象的な言葉は避け、事実のみを具体的に伝えることを心がけましょう。また、自分の主観を交えてしまうと、相手が主体的に考えづらくなってしまうため注意してください。
3:フィードバックと併用する
フィードバックはフィードフォワードとは正反対の指導法ですが、状況に応じて併用することでさらに大きな効果が期待できます。例えば、フィードフォワードで今後の目標を立てられないときにフィードバックで過去を振り返ることで、自分の課題や改善点が見つかることがあります。ただし、フィードバックを行う際は単なる否定やダメ出しにならないように気をつけましょう。
4:意識を未来に向けさせる
フィードフォワードにおいては、未来に意識を向けさせ、これから取るべき行動を自主的に考えてもらうことが最も重要です。今後の目標について質問を投げかけ、その回答を深掘りしてさらに質問を繰り返していくことで、相手の中で将来のイメージが具体化していきます。また、未来に向かう意欲を高めるためには、行動に対する結果を予測させることも効果的です。
まとめ
この記事では、フィードフォワードについて解説しました。フィードフォワードは、一方的な批判や非難を避け、未来に向けて対話を重視する新しい指導方法です。市場や顧客のニーズが目まぐるしく変わる現代社会を生き抜くためにも、今後多くの企業で普及していくことが予測されます。今回の記事も参考にしながら、フィードフォワードによる人材育成や組織力向上を目指しましょう。