ジェンダーハラスメントは性別に関わるハラスメントであり、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどと同じく、個人の尊厳を傷つける悪質な行為です。被害を受けた個人だけでなく所属する企業にも悪影響が及ぶため、事前に防止策を立てることが重要です。今回はジェンダーハラスメントの特徴やその他のハラスメントとの違い、企業への影響や防止策などについて詳しく解説します。
ジェンダーハラスメントとは
ジェンダーハラスメントとは、性別によって社会における役割が異なるとの概念に基づいた嫌がらせや差別のことです。例えば男性は営業担当で女性はそのサポートといった性別によって役割を決めつける行為が該当します。
会社で起きることが多いセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントとの違いについて、詳しくみていきましょう。
セクシュアルハラスメントとの違い
セクシュアルハラスメントは、性的な発言や行動などによる嫌がらせのことです。例えば、性的な内容の噂を流す行為や冗談、からかい、執拗なデートの誘いなどが該当します。ジェンダーハラスメントは性別そのものに関する嫌がらせや差別であるのに対し、セクシュアルハラスメントは性的な内容の嫌がらせやからかいなどを指します。
また性的な理由で身体に触れる行為、耳元でささやく行為などもセクシュアルハラスメントのひとつです。
パワーハラスメントとの違い
パワーハラスメントとは、暴力や暴言、強迫、無視、仲間外し、業務上明らかに不要なことの強制などによる嫌がらせのことです。能力や経験とかけ離れて程度の低い業務を与える行為や私的なことに過度に立ち入る行為なども、パワーハラスメントに該当します。
ジェンダーハラスメントとパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントを同時に経験している方も少なくありません。
職場におけるジェンダーハラスメントの事例
ジェンダーハラスメントに該当する行為は、仕事に関連する内容からプライベートに立ち入るものまで幅広く存在します。職場におけるジェンダーハラスメントの事例について詳しくみていきましょう。
性別を理由に昇進・昇格対象から外される
次のように、性別を理由にキャリアアップを絶つ行為・言動はジェンダーハラスメントに該当します。
- 女性は育児を理由に休むため昇進させない
- 結婚すると転勤できなくなるから管理職を任せない
- 女性はキャリアアップさせない
- 女性管理職を増やしたいから男性は昇進させない
このように女性である時点で、その会社でのキャリアアップができなくなります。また男性においては女性と比べて昇進・昇格対象から外されにくいものの、女性管理職を増やしたいといった会社都合でキャリアアップの道を絶たれることがあります。
言動・行動による男女差別
次のように、言動・行動による男女差別もジェンダーハラスメントに該当します。
- 男性は徒歩、女性にはタクシーを使わせる
- 男性だから堂々としろと言う
- 女性だからといって男性陣にお酒をつがせる
- 女性だからおしゃれをしろと言う
これらの行為・言動を悪気なく行う人は少なくありません。しかし相手にとっては心が深く傷つき、今後の人生に大きな悪影響が及ぶ場合があります。
性別に関連するプライベートへの過干渉
次のように、性別に関連したプライベートの過干渉もジェンダーハラスメントに該当します。
- 結婚しないの?
- 子どもは産まないの?何人ほしいの?
このような発言を自覚なく行う方もいます。しかし結婚したくてもできない、心身の問題で子どもを持つことが難しいなど、人にはさまざまな事情があるものです。自分にとっては何気ない発言でも、相手を深く傷つける場合があることに注意が必要です。
LGBTQに対する配慮の欠如
LGBTQとは、以下の頭文字をとった言葉です。
・レズビアン(女性同性愛者)
・ゲイ(男性同性愛者)
・バイセクシャル(両性愛者)
・トランスジェンダー(自認している性と身体の性が一致していない人)
・クエスチョニング(性自認や性的指向が定まっていない人)
LGBTQの社員に対する配慮の欠如も、ジェンダーハラスメントに該当します。例えば自認している性が女性で身体が男性のトランスジェンダーの人に「気持ちが悪い」と発言する行為や、スカートをはくのをやめるように伝える行為などがあります。
ジェンダーハラスメントを経験した人の割合
日本労働組合総連合会が発表した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」には、1,000名に対して行われた「職場でのハラスメントの調査結果」が掲載されています。
ジェンダー・ハラスメントを受けた人の数は42名(4.2%)でした。また、受けた被害の内容とその割合は以下の通りです。
- 性別役割分担意識にもとづく冗談やからかい……61.9%
- 「性別役割分担意識にもとづく嫌がらせ」と「性別役割分担意識にもとづく強要」……40.5%
ジェンダーハラスメントを受けた場合の対処法
ジェンダーハラスメントを受けた場合、放置するとエスカレートして心に深い傷を負う恐れがあります。被害を受けた場合は次のように対処しましょう。
信頼できる上司や役員に相談する
ジェンダーハラスメントを受けた場合は、信頼できる上司や役員に相談することが大切です。上司からジェンダーハラスメントを受けた場合は、さらにその上の上司に相談しましょう。ただし普段からジェンダーに対する配慮に欠けていると感じる場合は、相談しても反対に責められる可能性があります。
そのため、信頼できる上司や役員を見極めることが重要です。
社内外の相談窓口に報告する
社内のハラスメント相談窓口、労働基準監督署や弁護士事務所など、社内外の相談窓口に報告しましょう。具体的な対応策のアドバイスを受けることができます。また社内のハラスメント相談窓口に相談すれば、担当者や上司が加害者に注意喚起してくれる場合があります。
ジェンダーハラスメントを防ぐ方法は?
ジェンダーハラスメントを防ぐためには、個人の意識を変えるとともに、企業側がハラスメント防止に向けて対策を立てる必要があります。個人の意識改革については従業員それぞれの努力が必要です。
企業側には、ジェンダーハラスメントを許容しないことを企業方針として策定し、全従業員に周知することが求められます。その際はジェンダーハラスメントを行ったものへの対応方法まで周知すると、より効果的でしょう。また研修を通じてジェンダーハラスメントの具体例を全従業員に周知するとともに、ハラスメント防止の意識付けを行うことも有効です。
まとめ
ジェンダーハラスメントは、性別に関わる嫌がらせやからかい、冗談などにより、精神的な苦痛を与える行為です。ジェンダーハラスメントに該当する行為や発言を自覚なく行うケースもあります。しかし被害を受けた側は心に深い傷を負うこともあるため、企業をあげて防止策を講じることが重要です。今回解説したジェンダーハラスメントの内容や例、対処法、防止策などを参考に、健全な職場を実現しましょう。