転職が決まった企業から、入社までの期間に健康診断を受けるよう指示されることがあります。入社前健康診断の存在は知っていても、その概要や受診に関する詳細まで把握しきれていない人もいるのではないでしょうか。今回は、入社前健康診断について紹介します。
入社前健康診断は転職活動後にやるべきことのひとつです。診断結果によっては企業からフォローを受けられることもあるので、ぜひ参考にしてください。
入社前健康診断とは
入社前健康診断とは名称の通り、入社前に受診を要求される健康診断のことです。法定健康診断の一種であり、就職・転職時に企業から受診するよう指示されることがあります。入社前に企業から指定された病院で受診するか、個別で雇入時の健康診断に該当する健康診断を受診し、結果を企業に提出しましょう。ここでは、入社前健康診断の受診項目や受診対象者、定期健康診断との相違点について解説します。
受診項目
入社前健康診断の受診項目は、以下の11項目です。
既往歴及び業務歴の調査自覚症状及び他覚症状の有無の検査身長、体重、腹囲、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第三号において同じ。)の検査胸部エックス線検査血圧の測定血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。)血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(y-GTP)の検査(次条第一項第七号において「肝機能検査」という。)低比重リポ蛋たん白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋たん白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において「血中脂質検査」という。)血糖検査尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。)心電図検査 引用:労働衛生コンシェル |
上記の受診項目は「労働安全衛生規則第43条」により以下の形で定められているものです。
(雇入時の健康診断)第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。 引用:労働衛生コンシェル |
受診対象者
入社前健康診断の受診対象者は以下の3つの条件のうち、いずれかの条件を満たす入職者全員です。
- 雇用期間の定めがない
- 雇用期間の定めがある(契約更新で1年以上働く予定がある)
- 雇用期間の定めがある(契約更新で1年以上継続して働くことが決まっている)
上記の条件を満たす場合であれば、正社員だけでなくアルバイトやパート従業員も入社前健康診断の受診対象者です。
定期健康診断との相違点
入社前健康診断は、11項目すべてを受診する必要があります。対して定期健康診断は、検査項目の省略が可能です。具体的には、以下の項目が省略できます。
- 身長
- 腹囲
- 喀痰検査
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 心電図検査
これらの項目は、医師の判断により省略可能です。入社前健康診断には受診項目として「胸部エックス線検査」があります。しかし定期健康診断には胸部エックス線検査がなく、代わりに「喀痰(かくたん)検査」が追加されているのが特徴です。
入社前健康診断に関する疑問を解消
ここからは、入社前健康診断に関する主な疑問に関する回答を紹介します。入社前健康診断を受診する前に解消しておきたい疑問ばかりなので、把握したうえで入社前健康診断を受診してください。
受診費用はかかる?
入社前健康診断の受診費用はかかりません。費用を負担するのは基本的に企業側です。労働安全衛生規則には費用負担者についての明確な記載はありませんが、ほとんどの場合は企業負担であり、仮に自身で負担する場合でも「立て替え(約1万円)」なので安心してください。
いつ受診すべき?
明確な受診時期が決められているわけではないものの、入社日の前後3ヵ月以内が望ましいとされています。直近での健康状態を、自身はもちろん企業側も把握しておく必要があるためです。
受診できる場所は?
入社前健康診断は、自宅近くの医院や保健所で受診します。事前予約が必要な場合や入社前健康診断を請け負っていないところがあるため、注意してください。企業から受診場所を指定されることもあります。
受診にかかる時間や結果が出るまでの時間は?
入社前健康診断の受診時間は、1時間前後が目安です。受診項目の数や当日の予約人数によって多少変動します。結果が出るまでの期間は、1〜2週間前後が目安です。1ヵ月以上かかる場合もあるため、提出期限が定められている場合は、余裕を持って受診しておくことをおすすめします。
入社前健康診断の受診後に企業から受けられるフォロー
入社前健康診断を受けることで、企業から以下の3つのフォローを受けられる場合があります。
- 医師への意見聴取
- 業務の見直し
- 保健指導
入社前健康診断の結果によっては、従事することが難しい業務も出てくる可能性があります。ここで紹介するフォローを受けられる企業か、事前に判断したうえで入社を決めましょう。
医師への意見聴取
入社前健康診断の結果を受け、業務における何らかの支障があると判断された際、企業は医師に対して3ヵ月以内に意見聴取しなければなりません。入社する従業員が安全に働き続けるためのフォローであるのはもちろん、入社後にミスマッチが発覚することも防止できます。
業務の見直し
異常所見がある従業員に対し、業務内容を見直したうえで役割を与えてくれるのも入社前健康診断受診後のフォローです。医師への意見聴取と同様、従業員を無理に働かせないようにする配慮として多くの企業が実施しています。
保健指導
入社前健康診断の結果によっては、企業は従業員の健康保持に注意を払わなければなりません。健康維持に努める必要性があると判断されたら、医師・保健師から保健指導を受けることがあります。必要に応じて再検査を促される場合もあるでしょう。
入社前健康診断は採用・内定に影響するのか
たとえ入社前健康診断の結果で「異常所見」があっても、それを理由に不採用になることはほとんどありません。入社前健康診断は、あくまで入社が決まった後に実施すべき「義務」であるため、採用に関連する要素ではないからです。ただし企業から入社前健康診断の受診を促されているにもかかわらず故意に受診を避けていると、内定を取り消される可能性があります。
まとめ
今回は、内定後に受診することを促される入社前健康診断について紹介しました。受診項目や対象者などの基本から、費用・場所・受診時期に関する疑問にも回答しています。
入社前健康診断は、入社が決まった従業員に対して企業が求める最低限の準備であるため、特別な理由がない限りは拒否せず受診してください。受診結果によっては、働きやすい環境を用意してくれる場合もあります。
転職先で安心して働き続けるために必要な工程として、入社前健康診断への理解を深めましょう。