退職や異動に伴い、今の職場を離れるときに必要となるのが業務の引き継ぎです。引き継ぎには資料の準備や引き継ぎ後のフォローなど、労力がかかるものであることをご存じでしょうか。転職を考えて退職を決意したものの、退職するまでの期間を引き継ぎ作業に忙殺されてしまっては、転職活動を思うように進められなくなってしまいます。引き継ぎの手順やスムーズに進めるためのポイント、トラブルへの対応方法について確認しておきましょう。
引き継ぎとは
引き継ぎとは、自分が担当していた仕事の内容や手順、注意点などを後任者に伝えるための業務を指します。部署異動や退職、長期休暇など、業務の担当者が変わる際にはその理由を問わず引き継ぎが必要となります。内容によっては引き継ぎに長い期間をかけなければならず、前もって計画的に進めなければならない場合もあるでしょう。
引き継ぎが重要である理由
担当者が変わる際、なぜ引き継ぎが重要とされるのでしょうか。その理由を3つに分けて解説します。
企業の生産性を維持するため
引き継ぎが不十分だと、後任者は仕事の進め方がわからないまま業務に取り組むこととなります。そのため、生産性が大きく下がる可能性があります。引き継ぎを入念に行うことで、後任者が業務に対する知識を身につけることができ、引き継ぎ後の仕事へスムーズに取り組めるようになるでしょう。
顧客からの信頼を守るため
業務の引き継ぎは外部からの信頼にも関わります。いつも自社のサービスを利用している顧客が、ある日突然「担当者が変わったため分かりません」という対応を取られたらどう感じるでしょうか。信用を失い、自社サービスを利用してもらえなくなる恐れがあります。担当者が変わっても仕事の質を維持し続けなければ、関わる相手を失望させてしまうのです。
退職後の問い合わせを防ぐため
引き継ぎが企業にとって大切だとわかっていても「この職場を離れる自分には関係ない」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、引き継ぎは前任者にとっても重要なものです。引き継ぎを不完全なまま終えてしまうと、退職後や異動後に前任者しか分からない業務に関する問い合わせが続くことになってしまいます。退職したにもかかわらず頻繁に連絡が来てしまうような事態を避けるためにも、引き継ぎは徹底すべきです。
引き継ぎを行うための5つの手順
スムーズな引き継ぎを実現するためには、以下で紹介する5つの手順に沿って進めることが大切です。具体的な引き継ぎの流れを確認してみましょう。
引き継ぐ業務をリストアップする
業務の引き継ぎが必要になったら、まずは内容のリストアップから始めます。自分が担当する業務を全て書き出し、それぞれの引き継ぎに必要な手順や時間を考えてみましょう。業務を洗い出すことで「この業務を理解するためにはこっちの業務から引き継いだほうが良い」と、円滑な引き継ぎのための計画を立てられるでしょう。
引き継ぎのスケジュールを組む
引き継ぎリストが完成したら、自分が職場を離れるタイミングから逆算して引き継ぎスケジュールを組みましょう。後任者が引き継ぎ内容を理解するまで、想定以上に時間を要する可能性もあります。また、無計画に進めてしまうと時間が足りず、不十分なまま後任者に託すことにもなりかねません。そのため、余裕を持ったスケジュールを心がけましょう。
引き継ぎ資料を作成する
次に、引き継ぎのために必要となる資料を作成しましょう。引き継ぎ資料に記載すべき内容は次の通りです。
- 担当者と後任者の氏名
- 業務の概要や目的
- 業務の内容や関係者
- 作業の手順
- 作業にかかる期間や期限
- 過去に発生したトラブルや対応方法
- 関係者の連絡先
- データの保管場所や保管方法
複数の業務を引き継ぐ場合は、これらの内容をテンプレートとして業務ごとに当てはめると作成しやすく、後任の方にとっても見やすい資料になるでしょう。自分では「いちいち書かなくてもわかる」と思っている簡単な内容も、後任者にとっては分からないかもしれません。そのため、資料の内容はできるだけ具体的に記載しましょう。
引き継ぎの実施
ここまでの準備が揃ったら、実際に引き継ぎを進めていきましょう。計画的なスケジュールのもと、具体的な資料を使って引き継ぎを進められると、後任者も安心して業務を覚えることに集中できます。取引先などと顔を合わせる機会がある場合は、このタイミングで後任者を紹介することが望ましいでしょう。
引き継ぎ後のフォローを行う
一通りの引き継ぎを終えた後は、後任者をフォローできるようなスケジュールを組んでおきましょう。後任者が主体的に業務を担当してみて、初めて気づいた疑問が出てくることもあるでしょう。この期間は後任者任せにせず、積極的に声をかけて不明点がないか確認を行いましょう。
スムーズな引き継ぎを実践するポイント
ここでは、スムーズな引き継ぎのために押さえておきたいポイントを紹介します。
後任者のペースに合わせる
引き継ぎの際は、後任者のペースに合わせることを心がけましょう。まだ後任者が理解していないのにどんどん話を進めてしまうと、結局後任者は仕事を覚えられず、引き継ぎ自体意味のないものになってしまいます。後任者の勤続年数や経験によっても仕事への理解度は大きく異なるので、コミュニケーションを積極的に取りながら引き継ぐスピードを見極める必要があります。
業務の目的を伝える
「なんのためにこの業務があるのか」といった業務の目的や全体像は、はじめに伝えるようにしましょう。ゴールがわからないまま引き継ぎを受けても、業務が全体のうちどのくらいの割合を占めるのか、経験したことのない後任者にとっては理解できません。最終的な着地点を共有してからそこに向かって業務を教えていくことで、効率的に理解できます。
業務の繋がりを教える
会社における業務は、他の業務とも関連性があるものです。「次の段階であるこの業務のために、今はこの業務をやっている」「他部署の業務のためにこの業務がある」といったつながりを意識づけることで、その業務が持つ役割が伝わります。後任者が役割や関連性を理解することで、業務をスムーズに進められるようになるでしょう。
体験談も交えて具体的に説明する
前任者であるあなたが実際に体験した出来事は、前任者しか伝えられない重要な引き継ぎ事項です。「トラブルが起きたからこのようなやり方に変わっている」「ここに気をつけることで上手くいくようになった」といった体験談は、過去に発生した問題の再発防止にもつながる大事な内容です。引き継ぎ資料を作るときにも、記載できる体験談がないかこれまでの経験を振り返りながら進めていきましょう。
関係者にも引き継ぎを伝えておく
社内外を問わず、周囲の関係者にも担当者が変わることを伝えておきましょう。取引先にとっては、予告もなく担当者が変わると今まで通りのやり取りが成立せず、ストレスを与えてしまうかもしれません。また、社内のメンバーにも前もって伝えておくことで、トラブルが起きた際などにフォローをお願いできることもあるでしょう。
口頭ではなく資料を用意する
引き継ぎは口頭だけの指示で終わらせるべきではありません。引き継ぐ業務の量が多ければ多いほど、後任者が全てを覚えるためには時間がかかります。後任者がメモを取っていても書き間違えたり、書き漏らしたりすると、十分な引き継ぎは難しいでしょう。後から見返せる資料を前任者が作成することで、生産性を維持したスムーズな引き継ぎが可能になります。
コミュニケーションを取って理解度を確認する
前任者は、後任者に対して積極的にコミュニケーションを取る姿勢が大切です。例えば後任者が後輩のため、聞きたいことがあってもなかなか質問できずにいるかもしれません。相手の理解度を確認しながら、話しやすい環境を作ることも前任者の役割といえるでしょう。
引き継ぎトラブルの対応方法は?
最後に紹介するのは、引き継ぎにおけるトラブルへの対応方法です。よくあるトラブルの事例として、次の3点が挙げられます。
- 顧客から過去に受けたクレームや意見が引き継がれていない
- 前任者が突発的に退職したため引き継ぎが不十分
- 引き継ぎ内容が膨大で処理しきれない
引き継ぎにおけるトラブルを防ぐ方法として有効なのはマニュアル化です。主に、以下をルールとして引き継ぎ方法を定めることでトラブルを軽減できるでしょう。
- 顧客からのクレームは共有ファイルで一元管理
- 急な引き継ぎに備えて定期的に業務内容をまとめた資料を作成する
- 膨大な内容もスムーズに引き継ぐため資料をテンプレート化・データ化する
それでもなおトラブルが発生する場合は、トラブル時の対応手順を資料としてまとめながら、上司にもフォローをお願いしておくことをおすすめします。
まとめ
業務の引き継ぎは、社内生産性の維持や顧客との信頼関係構築の観点からとても重要です。前任者は後任者の立場に立って、今回紹介した手順を元にスムーズな引き継ぎを心がけるべきです。引き継ぎ業務のリストアップやスケジュール管理を怠ることなく、完璧な引き継ぎを目指しましょう。