会社経営において、自社の目的・意図が明確になっていないケースは少なくありません。そこで注目したいのが「パーパス経営」です。パーパス経営を行うことで自社の目的が明らかになり、従業員のモチベーションアップや利益につながる事業計画の立案などが可能になります。本記事では、パーパス経営の内容や条件、メリット、始め方、注意点などについて詳しく解説します。
パーパス経営とは
「パーパス(Purpose)」とは、日本語で「目的・意図」のことです。すなわちパーパス経営とは、企業が社会における存在意義や目標などを意識して行う経営を指します。利益創出のための企業活動によって経済成長を実現した一方で、産地偽装や過重労働、情報漏洩など、利益第一の考え方がさまざまな社会問題を生み出す結果となりました。
このように、企業活動と社会は切っても切れない関係のため、社会における企業の存在意義を軸に経営を行うことが重要と言われるようになったのです。
MVVとの違い
パーパス経営と似た概念に、MVVがあります。MVVとは、次の3つの頭文字からとった言葉です。
M:Mission(ミッション)…企業の使命や成し遂げたいこと
V:Vision(ビジョン)…企業の理想像、未来像
V:Value(バリュー)…企業の価値観や行動指針
パーパス経営は、社会とのつながりを強く意識した概念ですが、MVVにおいては社会とのつながりの有無は問われません。
パーパス経営の歴史
2018年に投資運用会社のCEOのラリー・フィンク氏がパーパスの重要性を説き、アメリカ経済においてパーパスを軸にした考え方が広まりました。その翌年の2019年にはアメリカの大手経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が『Statement on the Purpose of a Corporation(企業のパーパスに関する声明)』を発表し、社会や人を重視する方針に転換すべきと宣言しました。
このように、元はアメリカで広まった概念であり、近年は日本にも広がりつつあります。
パーパス経営が注目される理由
パーパス経営が注目されている理由は諸説ありますが、企業活動が社会に与える影響が浮き彫りになったほか、持続可能な社会を実現するためには、企業活動の見直しが必要であるとの考えが広まったためでしょう。
例えば、自然環境や従業員の健康に悪影響を与える企業活動は、たとえ多くの利益を得られたとしても、社会としては好ましい状態ではありません。ただし、社会問題には企業活動のほかにもさまざまな要因があるため、特定の企業に指導が入るだけでは、社会問題は解決しないでしょう。
全ての人が当事者意識を持ち、社会問題の解決に向けて取り組む必要があります。
パーパス経営の条件
パーパス経営は、自社の利益だけではなく社会への影響を踏まえて行う必要があります。パーパス経営の条件について詳しく見ていきましょう。
社会問題の解決につながる
パーパス経営は社会問題の解決が前提のため、環境問題や労働問題などの課題を抽出することから始めます。自社が取り組むべき社会問題を明確にし、それを解決できる事業方針を策定しましょう。
自社の利益につながる
パーパス経営は社会問題の解消を前提にしているとはいえ、ボランティア活動を行うわけではありません。パーパス経営とボランティアを混同すると、社会問題には良い影響を与えられたが、企業の利益が低下して事業継続が難しくなる事態に陥る恐れがあります。社会問題を解消しつつ自社の利益につながる方法を考えることが重要です。
現実的に実現できる可能性が高い
社会問題を解消しつつ自社の利益を求めることは容易ではありません。現実的に実現が難しい事業を策定しても、パーパス経営を実行できずに終わるでしょう。自社のスキル、ノウハウ、資金力などさまざまな項目を確認したうえで、実現できる可能性が高い事業を考えることが大切です。
社員のモチベーションにつながる
社員のモチベーションが高くなければ、パーパス経営の実現は難しいでしょう。自社の存在意義や仕事の社会的意義を認識し、共感することでモチベーションアップが期待できます。単に、経営者がパーパス経営を始める旨を伝えるだけでは、社員のモチベーションは上がりません。取り組む理由、社員にとってのメリットを明示し、自発的な行動を促すことが重要です。
パーパス経営のメリット
パーパス経営を検討する際は、メリットについての確認が必要です。自社にとってメリットが小さいのであれば、無理にパーパス経営を行う必要はありません。パーパス経営のメリットについて詳しく見ていきましょう。
意思決定のスピードが早くなる
パーパスは戦略を考える際の指針となります。戦略を速やかに立案し、意思決定が可能になるため、より効率的に利益を得られるようになるでしょう。また、パーパスを社内に浸透させることで、業務の中での細かな計画立案や意思決定をしやすくなります。
社員の帰属意識が高まる
パーパス経営の実行により、社員が社会貢献していることを実感しやすくなります。また、自社で働いている意義が明確になるため、会社に対する帰属意識も高まるでしょう。帰属意識が高まると、モチベーションアップや離職率の低下などが期待できます。
組織に一体感が生まれる
社会貢献につながる業務を行っていることが全社員に伝わると、組織に一体感が生まれます。担当する事業によって業務内容は異なるものの、「利益を追求しつつも社会貢献する」という点では共通しています。共通目的やビジョンを理解することで組織に一体感が生まれ、チームワークの向上につながります。
パーパス経営の始め方
パーパス経営の準備を怠ると、実行したものの、想定した効果が得られず早期に中止することになりかねません。以下で紹介する始め方の手順を理解して、パーパス経営を始めましょう。
1:調査および自社分析
まずは想定顧客や仕入れ先、扱うサービス、PR方法など、事業運営に必要な要素の調査を行います。そのうえで、現実的に実現できるパーパスを策定しましょう。社会問題の解消につながるとともに、自社の利益を得ることができる事業を考えることが重要です。
2:言語化
パーパス経営の意義、社員にとってのメリットなどを示すために言語化します。「社会貢献することの喜びを実感できる」のように、人によって捉え方が大きく異なるものは浸透しないでしょう。事業に関連する社会問題とその原因などはもちろん、社員の日々の生活に直結する身近な影響まで説明すると、納得感を得られやすくなります。
3:会社および事業への落とし込み
パーパスを経営計画の策定プロセスや現場での管理・マネジメントに落とし込みます。また、中長期のビジョンおよび数値目標を定めましょう。ビジョンや数値目標を定めることで、社員が目標達成に向けて行動しやすくなります。
4:日常業務への落とし込み
日々の業務にパーパスを落とし込み、社員が意識的に取り組めるようにします。パーパスを一方的に発信するだけでは、社員への意識付けはできません。パーパスについて考えたり、議論したりする場を設けましょう。
パーパス経営の注意点
パーパス経営の成功には、定期的な見直しと評価が必要です。パーパス経営の注意点について詳しく見ていきましょう。
定期的な見直しが必要
パーパス経営を策定したものの、社会問題への良い影響を実感できなかったり、利益が予想以上に少なかったりするケースがあります。一度目でパーパス経営を完全に成功させることは難しいため、定期的に見直しましょう。
落とし込みのレベルは定期的に評価する
社員にパーパスを落とし込むことは難しいため、どの程度理解できているかを定期的に評価し、改善策を立てましょう。会社の利益を作るのは社員であり、経営層は会社の方針を決めたり引っ張ったりするのが役割です。そのため、社員のかパーパスの理解度をいかにして上げるかがパーパス経営の精度に大きな影響を与えます。
まとめ
パーパス経営は、社会問題を解決しつつ利益を得る経営手法です。環境への考え方や社会貢献がより重視される現代において、社員の共通理念を設定することは大切です。社会問題を自分ごとに捉えることができなければ、適切なパーパス経営は策定できません。調査・分析、社員への落とし込みなどを高いレベルで行い、パーパス経営の基礎を作りましょう。そのうえで、定期的な評価・見直しにより、精度を高めていくことを推奨します。