なぜなぜ分析とは、根本的な原因を追求して問題を解決し、再発を防止させるのに有効な分析方法です。「カイゼン(改善)」という言葉を世界に広めたトヨタ自動車が発案したとされ、現在では製造業界をはじめ、さまざまなビジネスシーンで取り入れられています。この記事では、なぜなぜ分析を実践する目的や分析時のポイント、注意点などを解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
なぜなぜ分析とは
なぜなぜ分析とは、仕事や業務で発生した問題の原因究明に使われる分析方法です。根本的な原因を深掘りして真の原因(真因)を発見し、問題や課題の解決、再発防止に繋げます。「なぜ問題が起こったのか?」「なぜ問題に気付けなかったのか?」と、問題の発生原因と再発防止策について具体的に説明ができるまで、繰り返し自問自答を行うのが特徴です。
英語では「Five whys」と表記される
なぜなぜ分析は英語で「Five whys」と表記され、直訳すると「5回のなぜ」と表します。発案したトヨタ自動車がなぜなぜ分析を用いる際、「なぜを5回繰り返すこと」を推奨していたのが由来です。現在では必ずしも5回である必要はなく、問題の真因に辿り着いたかどうかが大切とされています。
なぜなぜ分析を行う目的
なぜなぜ分析を行う目的は、問題や課題を改善して再発を防ぐためです。その一環として根本原因(真因)の追求がありますが、根本原因の把握だけが目的にならないよう注意が必要です。根本原因の割り出しと再発防止の具体的なアクションは、必ずセットで実行するものと覚えておきましょう。ヒューマンエラーが問題の発生原因である場合も、個人の責任にして終わるのではなく、再発を防ぐ取り組みまでを行うのが真の目的です。
なぜなぜ分析の方法
ここからは、なぜなぜ分析を行う方法について紹介します。なぜなぜ分析は業界を問わず使われている分析手法のため、手順を覚えておくとさまざまな場面で役立ちます。
事象に関する課題を抽出
なぜなぜ分析を実施する前に、事象に関する課題を抽出しましょう。課題の抽出を間違えてしまうと、そのあとに行う分析の結果も当てになりません。問題の本質をきちんと見極めて、焦って分析の対象を抽出しないようにするのがポイントです。
課題のセグメントを行う
抽出した課題にはセグメント(分類)を行うのも大切で、複数の要素をまとめず別々に分析します。例えば、「売上が上がらない」という最初の課題に対して、「集客ができておらず、どう行動すれば良いかわからない」という分解方法は推奨できません。このケースでは、「集客ができていない」「行動をどうするか」の2つに要素を分けて、それぞれを掘り下げていくことが正解です。
課題の選定
前段で紹介した内容を踏まえて、慎重に課題を選定しましょう。それぞれのフェーズで発生する事象を飛ばさずに、繋げて考えていくと適切な課題の設定がしやすくなります。例えば、「飲食店の厨房でスタッフが転倒して怪我をした」という事象が起こった際、「床が滑りやすかったから」「スタッフが滑りやすい靴を履いていたから」では十分な答えにはなりません。
ここからさらに原因を深堀りすると、「床に油など滑りやすい汚れがあった」「前日の掃除を怠っていた」など、複数の要因が考えられます。
それぞれの要因ごとに問題解決のヒントが隠れているので、挙げた課題に優先順位を付けて個別に原因究明を行いましょう。
なぜなぜ分析のポイントと注意点
ここまでに紹介した内容を元に、なぜなぜ分析のポイントと注意点を見ていきましょう。
具体性は可能な限り高める
なぜなぜ分析を行う際は、可能な限り具体性を高めて課題や内容を設定しましょう。課題をスムーズに分解・発展させるためには、誰の目から見ても問題をはっきりと認識できる分かりやすい問題設定である必要があります。最初の方向性がズレると正しい結果を導き出せないので、なぜなぜ分析で最も力を入れるべき部分です。
真因と要因を明確にする
真因は根本的な原因を指し、要因は真因と相関関係にある事象のことを指します。真因と要因を明確にせずに分析を進めてしまうと真因に辿り着けず、適切な課題設定ができなくなる恐れがあります。
例えば、「早く走れないからサッカーには向いていない」といった内容も、サッカーをするのに向いていない原因のひとつにはなり得ます。しかし、早く走れないからといってサッカーに向かないとは限らず、別のポジションや戦略立案などでチームに貢献することは十分可能です。一方的な解釈にならないように、真因と要因の違いを明確にして分析を進めるようにしましょう。
事象を連鎖させる
なぜなぜ分析を効率的に進めるには、事象が起こるまでの連鎖を観察して、問題の発生原因を探ることが大切です。事象は急に発生するのではなく、複数の要因が関係して発生する場合がほとんどです。
例えば、Aという問題に対してBとCの要因がある場合、「BだけではAという問題は発生しないが、BとCが連鎖した場合にAという問題が発生する」などが挙げられます。事象の発生条件と言い換えることもできるでしょう。連鎖に着目して真因と要因の関係性を探るのも分析のポイントです。
複数要素の排除
課題のセグメントの項目でも説明しましたが、複数の要素をまとめずに別々の分析を行うことも重要です。複数の要素をまとめると、掘り下げていくことが難しく適切な課題解決ができません。要素はできる限り分解をして、それぞれを枝分かれさせて掘り下げましょう。
質問に具体性をもたせる
なぜなぜ分析では、発生した問題を正しく認識するために、従業員や関係者にヒアリングを行うこともあります。ヒアリングを行う際は、質問に具体性を持たせるのがとても大切なポイントです。「数字やスキーム図などを使って質問する」「抽象的な質問になってしまう場合には具体例を出す」など、質問の意図や意味を理解しやすい形式に噛み砕いてからヒアリングを行いましょう。
分析結果にも具体性をもたせる
課題の設定や質問にも具体性が必要と説明しましたが、分析結果にも具体性を持たせることを意識しましょう。
具体性を持たせたい場合は、5W1Hで考えると分かりやすいです。5W1Hとは「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の頭文字を取った言葉で、具体的な行動やタスクを設定したいときに必要不可欠な要素です。分析結果を5W1Hの形式に当てはめてチェックすると、「誰が・いつまでに・何をやれば良いか」が明確になり、対策を立てやすくなるでしょう。
コントロール可能な範囲を見定める
なぜなぜ分析を進めていくと、現場単位ではコントロールができない範囲にまで分析が及んでしまう場合があります。例えば、飲食業界で仕事をしている場合、「帰りがいつも遅くなるのはなぜか?」という質問に、「仕事量が多く時間内に仕事が終わらないから」と答えを出したとします。
これらの答えに対してさらになぜなぜ分析を進めていくと、
・「飲食業界では人手不足が蔓延しているから」
・「従業員が少ないのは飲食業界のイメージにも原因がある」
・「少子高齢化の影響で若手人材を採用できない」
など、帰りの時間を早くするための範疇を超えてしまうケースがあります。コントロールができないと思い込んでしまうことにも注意が必要ですが、あくまでも現場単位でコントロール可能な解決策の範囲に留める見定めも大切です。
特定の個人を批判しないように注意する
なぜなぜ分析を行う際は、個人に問題の責任を押し付けることがないよう注意をしましょう。
例えば、「あの人はできるけど、あの人はできない」といった決めつけです。これでは真の問題解決には至らずに終わってしまい、今後の解決策に繋げることはできません。大切なのは、問題や課題に注目することです。
具体的には質問の対象を組織・仕組み・システムなどに向けましょう。例えば、ミスや失敗を「なぜ〇〇さんはミスをしたのか?」ではなく、「何が〇〇さんにミスをさせたのか?」といった視点に変えるのです。これを意識するだけで個人を批判することなく、枠組みの問題点にフォーカスすることができるでしょう。
トヨタ式なぜなぜ分析の事例を紹介
最後に、なぜなぜ分析の生みの親であるトヨタ自動車の生産方式を紹介します。
トヨタ式なぜなぜ分析は「なぜを5回繰り返す」ことが推奨されていて、発生した事象の根本原因を洗い出すための考え方として当時から使われていました。ダイヤモンド社が1978年に発刊した「トヨタ生産方式」のなかに、トヨタ自動車の実例があるので引用します。
このように、なぜを5回繰り返していき真因の究明に努めるのがトヨタ生産方式です。現在広く使われているなぜなぜ分析の元になった分析方法なので、ぜひほかの問題解決事例も参考にしてみてください。
まとめ
なぜなぜ分析の概要や実践する目的、分析時のポイント、注意点などを解説してきました。なぜなぜ分析は課題の設定がとても大切で、できる限り明確に課題を設定し、分析結果にも具体性を持たせることが重要です。なぜなぜ分析は、問題や課題を改善して再発を防ぐためのものです。ぜひ記事の内容を参考にしながら、ビジネスシーンにおける問題解決に役立ててみてください。