昨今のビジネスシーンにおいて、パワハラをはじめとしたさまざまなハラスメント行為が問題になっています。夫婦間で起きやすいハラスメント行為として「モラハラ」が挙げられますが、近年では職場での発生事例が増えてきています。
この記事では、モラハラの概要や職場で発生しやすい事例、モラハラを受けた際の対処法について解説します。
モラハラとは
モラハラとは、モラル・ハラスメントの略語です。「精神的な苦痛を与えるために嫌がらせを繰り返し行っている」場合、モラハラに該当するといわれています。ただし、モラハラは法律用語ではないため、明確に定義されているわけではありません。
モラハラとパワハラの違い
パワハラとは、パワー・ハラスメントの略語であり、「職場内での優位な立場を背景に業務適正の範囲を超えて環境を害する」と定義されています。2019年の法改正によって一定の範囲ではあるものの、法整備が進みました。
モラハラとパワハラの大きな違いは、ハラスメントとして適用される「範囲」です。モラハラは立場などに関係なく行われる精神的なハラスメントであるのに対し、パワハラは職場での優位的な立場を利用して行われる精神的・肉体的なハラスメントとなります。
モラハラと認定される基準
モラハラには明確な認定基準が存在しないため、個々のケースを断定しにくいことが現状の課題です。また、法整備も進んでいないので、モラハラだと認定された場合でも直ちに法的責任に問えるわけでもありません。
ただし、モラハラと疑われる行為が社会的相当性を欠くと証明された場合には、民法上の不法行為として法的責任が生じる可能性があります。
職場でモラハラと認定されやすい3つのケース
前述の通り、モラハラには明確な認定基準はありませんが、ケース次第ではモラハラだと認定される事例もあります。ここからは、職場でモラハラと認定されやすい行為について解説します。
過剰な注意や誹謗中傷
仕事でミスをした場合、指導・注意されることは当然です。しかし、一般的な注意の範囲を超えた場合はモラハラに該当します。具体的な事例としては、次のようなものが挙げられます。
- 仕事が雑などの主観的な評価を押し付けて罵倒する
- 些細なミスを大げさに指摘して過剰に注意する
- 人格否定を含む悪口や誹謗中傷を行う
無視や意図的に孤立させる行為
モラハラの認定において、会社の就業環境は非常に大切な要素として捉えられています。そのため、職場で特定の人を無視したり、意図的に孤立させる行為はモラハラとなるケースがあります。無視や意図的に孤立させる行為の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 挨拶を無視する
- 会社内の飲み会に1人だけ誘わない
- 業務上重要な要件をわざと伝えない
個人のプライバシーに対する侵害
職場の関係性を超えて相手の私生活に過剰に立ち入ることも、プライバシーの侵害としてモラハラとなる恐れがあります。主なモラハラの事例としては、次の通りです。
- 個人の私生活に繰り返しダメ出しをする
- 休日・休暇中に執拗に連絡する
- 交友関係や恋人に関する話題を過剰に振ってくる
職場でモラハラを受けた際の対処法
自身が職場でモラハラと感じる行為を受けた場合は、どのように立ち回ればよいのでしょうか。判断が難しいモラハラですが、適切な対処法を知っておけば周囲に相談しやすくなり、モラハラとして認定される確率は高くなります。ここからは、モラハラの対処法について詳しくみていきましょう。
言動を録音する
もっとも有効な対処法が、言動を録音することです。延々と説教されているときや、名誉棄損にあたるような暴言を吐かれているときなど、暴言によるモラハラの場合には録音しておくとよいでしょう。録音内容がモラハラの証拠となり、精神的なダメージをどれだけ受けているのかを客観的に証明する材料になります。
テキストデータを保存
モラハラ被害の詳細をノートに記録し、テキストデータとして保存しておくことも有効な対処法です。ノートに記録しておくべき内容としては、次の項目が挙げられます。
- モラハラを受けた日時と相手の情報
- モラハラが始まるまでの背景
- 言動や行動といった被害内容
- 目撃者など周囲の状況
- モラハラを受けたときの心情
- 日々の体調や精神状態など
また、メールやLINE、高圧的な指示書、束縛するためのメモといった文章によるモラハラの場合、これらのテキストデータを証拠として保存しておくとよいでしょう。確実な保存方法としては、スクリーンショットやバックアップがおすすめです。
病院や公的機関への相談
モラハラによって心身に異常を感じる場合、症状が重くなる前に病院の診察を受けることをおすすめします。PTSDやストレス障害などと診断された場合は、診断書を忘れずに作成してもらいましょう。
診断書の作成には、2,000円から10,000円程度の費用がかかりますが、診断書は公的な証明として扱われます。病気とモラハラの因果関係を証明できれば、傷害罪として刑事告訴できる可能性もあります。もしも相手を訴えたい場合は、一度専門の弁護士に相談してみるとよいでしょう。
また、モラハラを職場だけで解決できない場合は、公的機関に相談することもひとつの手段です。モラハラを相談できる機関としては、次の2つが挙げられます。
- みんなの人権110番
- 総合労働相談コーナー
みんなの人権110番は、法務省が設置したモラハラを含む人権問題を相談できる窓口です。電話をすると最寄りの法務局や地方法務局につながり、現状を相談することができます。相談には法務局職員や人権委員が対応します。
総合労働相談コーナーとは、厚生労働省が主体となり、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内に設置している窓口です。予約不要かつ無料で相談でき、モラハラに代表されるさまざまな労働問題について話すことができます。
労働審判・訴訟の申し立て
労働審判とは、労使間トラブルを解決する手続きのことで、裁判所の労働審判委員会が主催しています。一方、訴訟の申し立ては民事裁判のことを指します。モラハラなどを含むハラスメント被害の損害賠償を相手や会社に請求したい場合は、最後の手段として検討するとよいでしょう。
退職・転職を視野に入れて行動する
「対処法を行っても解決しない」「会社に居づらくなってきた」といったケースでは、退職・転職を検討しましょう。人間関係や職場の雰囲気は仕事を続けるうえで重要な要素となります。モラハラによって自分が心地良く働けないのであれば、別の会社へ移ることもひとつの手段です。
まとめ
今回は職場で起こりやすいモラハラの事例や対処法について解説しました。
モラハラはパワハラなどと同じくハラスメントとして認知されていますが、判断基準の設定が難しく、まだ法整備が進んでいないのが現状です。
ただし、過剰な注意や誹謗中傷、個人のプライバシーに対する侵害など、職場でモラハラと認定される事例も多くなっています。自分に合った職場環境で長く働くためにも、モラハラへの正しい知識と対処法を身につけておきましょう。