家族を介護する上で直面するのが、「介護と仕事の両立」という課題ではないでしょうか。介護のために仕事を休まなければならない場合に、介護休暇や介護休業といった制度が有用です。この記事では、介護休暇と介護休業の違いやそれぞれの利用条件、申請方法について詳しく解説します。
介護休暇とは
介護休暇は、介護と仕事の両立を支援するための制度です。
自宅での介抱だけでなく、通院の付き添いや介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせにも、介護休暇を充てられます。制度の活用にあたってはいくつかの条件があるので、ご自身の状況と照らし合わせながら確認しましょう。
休暇日数は年間で5日まで
介護の対象となる家族が1人の場合、介護休暇制度を利用して取得できる休暇日数は年間5日までと定められています。対象家族が2人以上の場合は、年間10日までの取得が可能です。
介護休暇の取得にあたっては、1日単位だけでなく時間単位での取得も可能となっています。病院の送り迎えなど、短い時間の用事でも時間単位で休暇を取れるため、気軽に利用できる点が魅力的です。
なお、時間単位で休暇を取得する際に注意しなければならないのが、1日あたりの所定労働時間が契約によって異なるという点です。1日の労働時間が6時間の方は6時間×5日=30時間、8時間だと8時間×5日=40時間と、取得できる時間数が変わります。自分自身の取得可能な総時間数は事前に把握しておきましょう。
病院の付き添いや入院時に適した短期休暇
介護休暇は、1日・半日といった短い期間の休暇を取得できるという制度です。そのため、介護を必要とする家族が通院する際の付き添いや入院時の準備など、ピンポイントで人手が必要な時に使いやすい制度といえます。
年間5日間までと定められているので、いざという時に残りの日数がなくならないよう計画的に利用しましょう。
介護休暇中は無給?
介護休暇は、介護しながら働く人の負担軽減につながる大事な制度です。一方で、介護休暇中の収入面についても考える必要があるでしょう。
介護休暇を取得している間の賃金の支給については法律で定められておらず、会社によってその対応は異なります。基本的には無給としている会社が多いので、取得を検討している場合は就業規則を確認しておきましょう。また、事前に担当部署へ問い合わせておくこともおすすめします。
介護休暇制度の利用条件
次に、介護休暇を取得するための利用条件について解説します。比較的利用しやすい制度ですが、要件によっては利用対象に当てはまらない場合もあるので注意しましょう。
介護休暇の対象者と対象労働者
介護休暇制度には、介護する側の労働者と介護される家族それぞれの対象範囲が定められています。
まず、対象となる労働者については、「対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)」とされています。契約社員やパート・アルバイトも対象ですが、入社6ヵ月未満の方や1週間の所定労働日数が2日以下の方は対象にならないため注意しましょう。
介護を受ける家族は、以下の範囲までが対象です。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母
- 子
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
同居していても上記の対象範囲に当てはまらない場合、介護休暇は利用できません。
介護休暇は公務員も利用できる
介護休暇は民間企業のみならず、公務員でも利用できる制度です。国家公務員に対しては「妊娠・出産・育児・介護と仕事の両立支援制度の活用に関する指針」が定められており、民間企業と同じ条件で利用できます。
地方公務員は自治体ごとの条例によりますが、原則的には国家公務員と同様の制度が利用可能です。
介護休暇を取得できない場合
介護休暇制度は、公務員や民間企業など幅広い方が利用できます。しかし、次に挙げる方は対象になりません。
・日雇いで働いている
・雇用から6ヵ月未満である
・週の労働日数が2日以下である
また、「業務の性質や実施体制に照らし1日未満の単位で取得することが困難と認められる業務に従事する労働者」に該当する場合も対象外です。こちらに該当する場合、会社側は時間単位での休暇取得を拒むことが可能である点に注意しておきましょう。
介護休暇の申請方法
職場内で介護休暇を申請する際は、有給休暇などを取得する際と同様に、社内の規則に従って手続きをします。制度上は、休む当日の連絡でも介護休暇の取得が可能です。ただし就業規則は会社によって異なるので、事前に担当部署へ相談しておくことをおすすめします。
介護休業とは
介護休業は介護休暇と同じく、労働者に対して法的に定められた制度です。仕事と介護を両立できる体制を整えるための制度なので、制度の内容をしっかりと理解しておきしましょう。
休業日数は通算で93日まで
介護休業は介護を受ける家族1人につき、通算で93日まで休みを取得できます。介護休暇とは異なり、年間ではなく家族1人に対しての通算日数として定められているのが特徴です。また、3回まで分割して取得できるので、必要に応じて柔軟に取得できる仕組みです。
介護と仕事を両立したいときに適した長期休暇
介護休暇は通算93日という長い期間に渡って休暇の取得が可能です。そのため、労働者本人による介護だけでなく、仕事と介護を両立できる体制を整えるための時間として捉える必要があるでしょう。
自治体や介護サービス、ケアマネジャーなどを通じて各種制度やサービスを上手く利用し、一人で抱え込まないことが重要です。休業期間を終えたあとは仕事に打ち込めるように、介護の体制を作るよう意識しましょう。
介護休業中の賃金はどうなる?
介護休業では介護休暇と同じく、休業中の賃金の支払いについては定められていません。会社の就業規則によって対応が異なるので、あらかじめ担当部署へ確認しておきましょう。
ただし、雇用保険の被保険者で、かつ一定の要件を満たす場合は、介護休業給付金として休業開始時の67%に当たる金額が支給されます。こちらは会社からハローワークに申請する必要があるので、事前に確認しておくとよいでしょう。
介護休業給付金制度とは
介護休業給付金については、前述の通り「給料の67%が保証される制度」です。給付金を受け取るための条件には、以下の3点が挙げられます。
・雇用保険に加入している
・2週間以上の休業を必要とする
・職場に復帰する前提
また、雇用契約期間の定めの有無によっても条件は変わります。まず、契約期間が定められていない人の場合は、「介護休業を開始した日より前の2年間に、雇用保険に加入している時期が12ヵ月以上あること」が条件です。
次に、契約期間の定めがある人の場合は、「介護休業を開始した日より前の2年間に、雇用保険に加入している期間が12ヵ月以上である」という条件に加えて、以下の条件も満たしている必要があります。
・介護休業が開始される時点で、同じ事業主から1年以上雇用されていること
・介護休業開始予定日から93日が経過する日から6ヵ月経過する日までに、労働契約が終わると決まっていないこと
介護休業給付金の受給は上記の条件を満たしている必要があるので、あらかじめ確認しておきましょう。
介護休業制度の利用条件
ここでは、介護休業制度の利用にあたってどのような条件があるのかを解説します。
介護休業の対象者と対象労働者
対象となる労働者の条件は、「対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)」とされています。
「取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかではないこと」も条件です。言い換えると、介護休業取得後6ヵ月以内に契約を更新されないことが明らかな場合は制度を利用できません。申請時点で要件を満たしている必要があるため、前もって確認しておきましょう。
また介護を受けられる家族は、介護休暇と同様に以下の通りです。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母
- 子
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
介護休業は公務員も利用できる
公務員が介護休業を利用する場合の日数も93日までで、3回まで分割可能です。民間企業と変わらない条件で利用できることがわかります。
また、地方公務員の場合は条例によって定められている内容に違いがあるかもしれません。申請前に、上司や担当者に確認することをおすすめします。
介護休業を取得できない場合
介護休業を取得できないケースは以下の通りです。
・入社1年未満
・申出から93日以内に雇用が終了する
・1週間の所定労働日数が2日以下
介護による離職を防ぐという目的もあるので、雇用関係が終了することが明白な場合は利用できません。
介護休業の申請方法
介護休業を申請する場合は、休業開始予定日の2週間前までに書面等で事業主に届け出る必要があります。
また、休業期間が終了する2週間前までに申し出ることで、1回の申出ごとの休業につき1回に限り、理由を問わず休業終了予定日を繰り下げられるという決まりになっています。申請にあたっては、会社が定める様式で書類を申請します。そのため、日数に余裕を持って一度担当部署に相談するのがおすすめです。
介護休暇と介護休業の違い<
ここでは、介護休暇と介護休業の制度における主な違いを表にまとめて紹介します。
介護休暇 | 介護休業 | |
取得できる休暇日数 | 対象家族1人あたり年間5日まで(2人以上の場合10日まで) | 対象家族1人当たり通算93日まで |
休業中の賃金 | 就業規則による | 就業規則による(条件によっては介護休業給付金制度を利用できる) |
申請方法 | 休む当日でも申請できる | 2週間前までに書面を提出 |
対象外となる労働者 | ・日雇い・入社6ヵ月未満・1週間の所定労働日数が2日以下 | ・日雇い・入社1年未満・申請から93日以内に雇用契約を終える・1週間の所定労働日数が2日以下 |
介護休暇よりも介護休業のほうが取得できる休みが多いため、要件も比較的厳しくなっています。
まとめ
介護休暇と介護休業、それぞれの制度の内容や違いについて紹介しました。いずれも、介護と仕事との両立を支援するために整備されている制度です。
例えば、病院への付き添いなど短期間の休みが必要な場合は介護休暇を取得します。本格的に介護の体制を整えるための時間が必要な場合は、介護休業を取得します。このように、状況に応じて有効に使える制度を見極めることが大切です。
負担が大きな家族の介護について一人で抱え込まずに、今回解説した制度を活用してしっかりと仕事と介護を両立させましょう。