同じ会社に勤め同じ仕事をしていても、正社員とパートやアルバイトでは待遇面に差があります。そこで労働の雇用形態に関わらず、同じ賃金を支給する考え方から適用されたのが「同一労働同一賃金」です。
非正規雇用が増加している今、雇用による格差は広がりつつあります。本記事では安心して仕事を続けるために覚えておきたい同一労働同一賃金とはどのような制度なのか、適用されることでどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金は、一言でいうと「不合理な待遇差を解消するための制度」です。労働内容が同じであれば雇用形態に関わらず同じ賃金が支給されるため、正社員・パート・アルバイトの格差がなくなります。ここでは、同一労働同一賃金とはどのような制度なのか、その特徴を見ていきましょう。
同一労働同一賃金が導入された背景
同一労働同一賃金が導入された背景には、非正規雇用が増加していることが関係しています。労働者の4割近くが非正規雇用者であるとされる昨今、待遇面の格差を見直すべきだといわれるようになりました。
実際に非正規雇用の場合、賃金だけにとどまらず、有給休暇や福利厚生、出産時の休暇(育休)の取得難易度、退職金制度など、正社員との間に大きな待遇の差があります。また、非正規雇用から正社員になれず、安定しない賃金のなかで仕事をしている人も少なくありません。そういった現状による格差を解消する目的が、同一労働同一賃金導入の背景です。
均等待遇と均衡待遇について
同一労働同一賃金を理解するには、まず均等待遇と均衡待遇の違いについて正しく理解する必要があります。ここから詳しく解説します。
<均等待遇>
正社員やパート・アルバイトといった雇用形態に関わらず、同様の仕事をしているのであれば
同じ賃金や待遇を受ける権利があるという考え方です。通常行っている職務の内容や、責任の度合い、人事異動や転勤など「職務内容の配置変更の範囲」などが対象です。職務内容の配置変更の範囲の内容が同じ場合、雇用形態によって賃金の差を作ってはいけないとされています。
<均衡待遇>
正社員やパート・アルバイトの間に仕事内容の差がある場合、それぞれに適した合理的な待遇や賃金を受ける権利があるという考え方です。均等待遇と同じ項目での比較はもちろん、「前職での経験や保有している資格」などの違いも追加されます。仕事内容の違いがあれば、必要に応じて待遇を与えなくてはいけないとしたものです。
同一労働同一賃金により強化された説明義務
同一労働同一賃金では、雇用形態に関わらず説明する義務が決められています。例えば待遇差や、その内容、理由などを就労者に尋ねられたときは、説明しなくてはいけません。
ここからは同一労働同一賃金の説明義務とは、具体的にどのようなものなのか解説します。
企業には同一労働同一賃金の説明が義務付けられている
就労者のなかには、正社員と同じ仕事を任されているのに実際に受け取る賃金や待遇に差があれば、その理由を知りたいと思う人もいるでしょう。これまでは、非正規雇用者にはこれらの説明を義務付ける法律がなかったため、明確な答えがもらえずにいたかもしれません。
また、正社員とパートなど非正規雇用では給与や待遇に差があって当たり前、という認識が根強くあり、疑問すら持たない人もいたのではないでしょうか。同一労働同一賃金では、雇い入れの際はもちろん、求められたときには賃金や待遇に差がある理由についての説明を行う義務が生じます。企業は、合理的な説明をしないと違反になってしまいます。
同一労働同一賃金導入前後の相違点
同一労働同一賃金が導入される以前から、説明義務がなかったわけではありません。内容や雇用形態によっては、同一労働同一賃金の制度が導入される前でも説明が必要になる部分がありました。
有期雇用(事業主・労働者が労働期間などの定めがある労働契約を結ぶ契約のこと)はいずれも説明義務の規定なしでしたが、同一労働同一賃金を導入することですべてが説明義務の規定ありへと変わりました。給与や福利厚生など、正社員との格差について疑問に思えば、合理的な説明が受けられるようになったのが大きな相違点です。
同一労働同一賃金のメリット
同一労働同一賃金が導入されることで、就労者にどのようなメリットがあるのでしょうか。就労者にとってのメリットは、主に以下の4つです。それぞれ詳しく解説します。
- 非正規雇用労働者でもやりがいをもって働ける
- 非正規雇用労働者でもスキルアップ・キャリアアップしやすい
- 待遇について理解を深めたうえで働ける
- ワークライフバランスを実現しやすい
非正規雇用労働者でもやりがいをもって働ける
同一労働同一賃金は、非正規雇用にとってもモチベーションアップにつながります。正社員と待遇が違うのが当たり前である一方、任される仕事が変わらないままでは、やりがいを感じられなくなってしまいます。頑張ったらその分評価され、正社員なみの待遇を受けられるとなれば、仕事に対してのやりがいをもって、前向きな気持ちで取り組めるようになります。
非正規雇用労働者でもスキルアップ・キャリアアップしやすい
非正規雇用労働者であっても、教育訓練を受けられるようになれば、正規雇用者と同様の環境で業務を通じたスキルアップが可能です。スキルアップが順調にできれば成果を上げやすくなり、業務における評価を得やすいため、非正規雇用であってもキャリアアップを目指しやすくなります。また、キャリアアップを実現すれば賃金も増え、生活基盤の安定にもつながりやすくなります。
待遇について理解を深めたうえで働ける
今までは非正規雇用だからと、待遇の差について説明を受ける機会がなかった人も多いのではないでしょうか。雇用形態に限らず、疑問に思うことがあればいつでも質問できるため、待遇について深く理解し納得したうえで働けるようになります。
ワークライフバランスを実現しやすい
正社員で働きたいと思っていても、育児や介護などさまざまな事情により非正規雇用を選択している人もいるでしょう。多様な働き方が浸透してきたことで、個人の事情に合わせたワークライフバランスを実現できるかどうかによって、ベストと考える働き方に変化が出てきました。
パートタイム・アルバイトであっても、正社員との待遇の差がなければ魅力的な職場になります。長く働き続けたいと思える職場づくりにもつながるでしょう。
同一労働同一賃金のデメリット
同一労働同一賃金を導入すると、どのようなデメリットがあるのでしょうか。あくまでも可能性として考えられる範囲のおもなデメリットは、以下の2点です。
- 既存の待遇が悪化する
- 非正規雇用労働者の受け入れ幅が狭くなる
それぞれ詳しく説明します。
既存の待遇が悪化する
同一労働同一賃金を実現しようとすると、人件費の負担が増えてしまいます。そのため、正社員の給与や賞与を減らさないと対応できないケースが出る恐れがあるのです。
既存の正社員の待遇が下がれば、従業員から不満が出たり仕事に対するモチベーションが下がったり、社風が悪くなるケースが考えられます。そのため既存の労働者に対して十分な説明を行い、納得してもらったうえで同一労働同一賃金を導入しなくてはいけません。
非正規雇用労働者の受け入れ幅が狭くなる
中小企業など、もともと非正規雇用の割合が多い企業になると、非正規雇用労働者の受け入れ幅を狭めなければなりません。限られた予算のなかで人件費を捻出する必要性が出てくるため、派遣切りにつながる可能性もあるでしょう。
非正規雇用の待遇を改善すると、受け入れ幅が少なくなる可能性があることも、覚えておきましょう。
まとめ
同一労働同一賃金は非正規雇用労働者にとっても、正社員と非正規雇用の給料や賞与など不合理な待遇の差がなくなる分、安心して仕事ができます。モチベーションの向上はもちろん、ワークライフバランスに合わせた働き方ができるなど、さまざまなメリットがあります。だからこそ、今一度同一労働同一賃金の概要や導入背景をしっかりと押さえておきましょう。