「男女雇用機会均等法」とは、1986年に施行された法律です。施行後も数度の改正が行われており、一番身近な改正はパワーハラスメントの防止措置などが義務付けられた2020年6月です。男女雇用機会均等法は女性の社会進出促進に貢献した法律とされ、従業員が安心・安全に働くためには欠かせないものです。しかし、一般的な認知度はまだ高くありません。この記事では、男女雇用機会均等法の概要や改正の歴史、雇用における対象項目について詳しく解説します。
男女雇用機会均等法とは
男女雇用機会均等法とは、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」の通称です。企業が募集や採用、配置、昇進、福利厚生、退職、解雇などにあたって、性別を理由にした差別の禁止などを定めています。
法律の施行をきっかけに、看護婦が看護師、スチュワーデスが客室乗務員と表記されるようになり、性別を限定するような職業の名称が軒並み変更されました。そのほか、母性保護のために女性労働者の通院等を妨げてはいけないという規定も設けられています。
女性の自由な働き方を推進しており、出産・育児休業の取得促進やキャリア継続はもちろん、人手不足の解消にも貢献している法律です。
制度改正の歴史
男女雇用機会均等法は1985年に制定され、翌1986年に施行されました。施行当初、各差別の禁止項目は努力義務でしたが、1999年の改正で禁止規定となっています。
その後も禁止項目は追加されており、2007年の改正では出産・育児の不利益取り扱いが禁止され、今まで規制のなかった男性への差別・セクハラの禁止が規定されました。
また、2017年の改正では、マタニティハラスメントの防止措置を講じることが企業の義務となっています。2020年6月には、セクハラやマタニティハラスメントなどの防止指針が改正されて対応が必要となったほか、パワーハラスメントの防止措置が義務づけられました。
男女雇用機会均等法の対象となる9項目
男女雇用機会均等法には、さまざまな禁止対象が設けられています。対象項目が定める内容をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
1:求人募集
求人募集では、男性・女性どちらかを募集対象から外すことを禁止しています。また、性別による差別を行っていなかったとしても、性別によって採用数や採用条件を設定している場合は違法です。また、どちらかの性別を歓迎する表現も禁止されているため、求人募集をする際は注意しなければなりません。
2:採用
面接・採用では、性別を理由に差別的な扱いをすることが禁止されています。事例としては、「結婚・出産後も同じように働き続けられるか」などの質問が挙げられます。また、採用試験の受験において、女性のみ推薦書の提出を条件として設けている場合も違法です。企業側から見ると、産休・育休の取得有無を重要視している可能性がありますが、差別的な採用を避けながら会社の環境を整備していかなければなりません。
3:人員配置
性別を理由にした人員配置も禁止されています。不当な人員配置の事例としては、以下の通りです。
- 営業職は男性限定
- 受付・秘書は女性限定
- 結婚・出産後は特定職務への配置は認めない
以上の点から、人員配置は性別ではなく、個々の能力や特性に応じて行わなければなりません。
4:昇進や降格
性別を理由に昇進させなかったり、降格させたりすることも不当とされています。不当な昇進や降格の事例としては、以下の通りです。
- 女性の昇進機会がない
- 昇進はできるものの、昇進できる役職には限度がある
- 女性のみ昇進試験に上司の推薦が必要
- 結婚・出産後は降格
上記の禁止事項を行っていなかったとしても、日本の女性管理職比率は今なお低いことが実情です。企業は女性の社会進出を促進するために、さらなる努力を求められています。
5:教育訓練
性別によって教育・訓練の差別化を図ることも禁止されています。不当な教育訓練の事例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 男女どちらかの性別を教育訓練の対象外にする
- 性別によって研修内容や期間が異なる
- 勤続年数や勤務年数など、教育訓練の実施条件が性別によって異なる
また、性別による差別化を図っていなかったとしても、結婚や出産などを理由に教育訓練の対象外にしている場合は違法になります。
6:福利厚生
性別によって福利厚生の内容を変えることも不当なため禁止されています。具体的な事例は以下の通り。男女どちらかだけが使用できる福利厚生制度がある場合は、不当な差別扱いになっていないか注意が必要です。
- 貸付や住宅貸与などの条件が性別によって異なる
- 女性のみ配偶者の所得証明を要求する
- 寮の入居対象を男女どちらかに限定する
7:職種・雇用形態
職種・雇用形態の変更において、性別を理由に不当な扱いをすることも禁止対象となっています。不当な職種・雇用形態の事例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 総合職から一般職へ変更する際、男性のみ変更が認められていない
- 女性のみ指定した年齢になったら営業職から事務職へ変更される
- パート・契約社員が正社員になる場合、性別によって試験基準が違う
8:退職・解雇
性別を理由にした退職の勧告や解雇は不当なため禁止されています。仮に能力や勤務態度を理由に退職勧告を行う場合でも、性別差別の要素が入っていないか常に注意する必要があります。不当な退職・解雇の事例としては、以下の通りです。
- 女性のみリストラ対象にする
- 男女どちらかを優先してリストラする
- 性別によって退職・解雇基準が異なる
9:労働契約
性別を理由に労働契約を変えることも禁止事項です。具体的な事例としては、「経営の効率化や生産性向上を図るために、女性のみ労働契約を更新しない」などが挙げられます。また、どちらかの性別を優先させたり、男女どちらかに契約更新の上限回数を設定することも違法です。
男女雇用機会均等法の問題点
制度改正の歴史でも紹介した通り、男女雇用機会均等法は施行後も社会の変化に適用できるように、数度の改正が行われました。制定・改正によって女性の社会進出は進展し、2010年には雇用者全体の約42%にあたる約2,300万人まで増加しています。
しかし、改正を重ねた現行の男女雇用機会均等法であっても、指摘されている問題点は多いです。
主な問題点としては、以下の6つが挙げられます。
- 差別は解消されても男性優位な状態が継続している
- 既婚者と未婚者の待遇差別
- LGBTへの差別
- 男性へ逆差別
- 男女の賃金格差
- 採用差別
性差別の禁止という認識が一般化し、女性を登用する企業が増加傾向にある一方、賃金格差や採用差別の改善はあまり進んでいません。また、施行当時の男女雇用機会均等法が努力義務だったという性質上、違反しても罰則がないという点も大きな問題となっています。
まとめ
男女雇用機会均等法によって、求人募集・採用・人員配置・昇進・教育訓練など、さまざまな項目で性別による差別が禁止されました。女性の社会進出が進展したのは、法律の施行によって性差別の禁止が一般化したことにも一因があるでしょう。男女雇用機会均等法の内容を正しく理解し、自身の就職・転職や採用シーンに活かしてみてください。