転職活動における選考のフェーズで、たびたび「フェルミ推定」というテクニックが必要になる場面があります。フェルミ推定とは、予想できない数値をあえて概算することです。聞き慣れない言葉であるため、どのような考え方なのか把握していない方も多いでしょう。
今回は、フェルミ推定の概念や背景、関連するスキルについて紹介します。フェルミ推定を行うためのステップや、転職活動に向けての対策もあわせて解説しているので、自身のスキルとして確実に身につけるための参考になれば幸いです。
フェルミ推定とは
普段意識することがなく、正確に把握できない数値をあえて概算し、算出することをフェルミ推定といいます。
「日本に在住している男性は何人か?」など、範囲も広く予想しにくい問題を論理的思考を元に算出するのがフェルミ推定の定義です。なお、この例題の場合だと、まずは日本の総人口を調べたうえで「男女比を50%ずつとする」と仮定して計算することで、おおよその数値が算出できます。
【代表的なフェルミ推定の例題】
- 全国の高校生の人数
- スマートフォンの所有台数
上記のように、少し考えることで予想値を出せる範囲が、フェルミ推定の定義により算出できるものといえます。
フェルミ推定が必要とされる背景
フェルミ推定は、企業が求職者の論理的思考力や、プレゼン力など実際のビジネスで必要な能力があるかを見るために採用しています。
もっとも重視しているのは、フェルミ推定を通じて求職者の「推論力」を測ることです。特定の問題に対してどのような考えを当てはめれば数字を出せるか、考える力をフェルミ推定を通じて判断する場合があります。スマートフォンの所有台数であれば、「日本の総人口や年齢層別の所有率、給与所得者の人数や労働人口などがわかれば、おおよその台数はわかる」といったイメージです。
また、フェルミ推定を進めるうえでの過程や仮説をプレゼンとして発表することにより、論理的な説明力を判断する企業もあります。フェルミ推定の内容をディスカッションする場を設けて、コミュニケーション能力を測る企業も少なくありません。面接における重要な項目として使われることもあるのがフェルミ推定です。
フェルミ推定に求められるスキル
フェルミ推定を進めるうえで求められるのは、以下に挙げるスキルです。
- 論理的思考
- プレゼン能力
- コミュニケーション能力
そもそもフェルミ推定が、上記の能力が備わっているかどうかを企業が判断するために実施されるものです。そのため、問題に対して正しく予測値を出しつつ、結果をうまく伝える能力が求められると覚えておきましょう。
フェルミ推定を行う基本ステップ
フェルミ推定は以下のステップで実施するのが基本です。
- 前提条件を確認する
- 構成要素をピックアップする
- 必要な数字を当てはめる
- 検証する
それぞれのステップで何をすべきなのか、ここで詳しく解説します。
1:前提条件を確認する
フェルミ推定の対象となる問題から、数値化すべき対象を明確に設定します。問題が「日本で使用されているスマートフォンの数は何台か?」であれば、対象となるのは「スマートフォンの数」です。
2:構成要素をピックアップする
ステップ1で出した前提条件を出すために、どのような方法で検証すべきかを考えます。「日本で使用されているスマートフォンの数」を出すのであれば、以下を構成要素として並べましょう。
- 日本の総人口
- スマートフォンを所有していると想定できる年齢層(10〜69歳までを50%、70歳以上を50%など)
- 給与所得者
- 労働者の人口数(社用スマートフォンを貸与される想定)
ここで導き出した要素をもとに、次のステップに進みます。
3:必要な数字を当てはめる
上記で挙げた構成をもとに、実際の数値を当てはめていきます。
=年齢別の人口 × 60(=10歳から69歳)+ 50% × 年齢別の人口 × 10(=70歳から79歳)+ 50%× 給与所得者の人口 =150万人 × 60 + 50% × 150万人 × 10 + 50% × 5900万人 =9000万 + 750万 + 2,950万 ≒1.3億台 |
結果、日本人が所有しているスマートフォンの台数はおよそ「1,3億台ほど」と予想できます。
4:仮説としてプレゼンする
ここまでのステップで導き出した数字を「結果」とし、仮説として面接官にプレゼンします。ただ結果を伝えるだけでなく、ステップ1〜3まででどのようなことを考え実施したのかを含めて伝えるようにしてください。
フェルミ推定対策とは
フェルミ推定をスムーズに実施するためには、以下に挙げる対策を進めておくことが推奨されます。
- 一般常識の数値を把握する
- 例題に多く触れておく
- 構造化の知識を身につける
面接官に対するアピールをより効果的にするためにも、ここで紹介するフェルミ推定対策をぜひ参考にしてください。
一般常識の数値を把握する
一般的に目にすることの多い数値を、ある程度把握しておくことで対応力が高まります。フェルミ推定の題材とされやすいのは、日本に関連する以下の数値です。
- 総人口(1.2億人:2022年)
- 平均寿命(84歳:2020年)
- 世帯数(5,949万世帯:2021年)
- 国土面積(約38㎢)
- 給与所得者数(5,928万人:2020年)
- 平均給与額(433万円)
上記の項目を日本ではなく世界規模で問われる場合もあるので、事前に把握しておくと良いでしょう。
例題に多く触れておく
一般常識の数値を例題にするなどして、論理的思考をもとに数値を出すことに慣れておくべきです。インターネット上で「フェルミ推定 例題」と検索をかけると、すぐに取り組める例外が数多く表示されます。どのような問題がフェルミ推定として出題されるのか、傾向を把握することにもつながるので実施してみてください。
構造化の知識を身につける
予想すべき数値を算出するために必要な要素を、的確かつスムーズにまとめる「構造化」の能力を身につけることが大切です。フェルミ推定の対象となる事柄や要素がわかっても、正確に数値化するための構造ができなければ意味がありません。「なぜこの結果になったのか」をしっかりプレゼンするためにも、構造化に目を向けることは非常に大切です。
フェルミ推定は役に立たないという意見もある?
フェルミ推定に対して「役に立たない」と考えている採用担当者も少なくありません。
面接ごとに出題内容が変わることも多いため、求職者間の能力を明確に判断しにくい点が理由です。また、少ない面接の時間でフェルミ推定を実施しても、正確な能力の把握や求職者ごとの差を出すのが難しいという理由も挙げられます。
フェルミ推定そのものの知名度も高まっているため、容易に対策ができてしまうのも役に立たないといわれる理由です。日本で率先してフェルミ推定を導入していたGoogleが、選考プロセスにおけるフェルミ推定を取りやめたことも大きいのではないでしょうか。
とはいえ、これはあくまで採用担当者、企業の視点です。論理的思考力やプレゼン能力、コミュニケーション能力を鍛える意味では、フェルミ推定の実施は役立ちます。あくまでビジネスパーソンとして力をつけるという目的で、フェルミ推定を通じてスキルを高めてみるのも良いでしょう。
まとめ
今回は、面接などで求められることがあるフェルミ推定について紹介しました。自身の論理的思考力・プレゼン能力・コミュニケーション能力を企業にアピールするうえで、重要なものといえます。
一般常識の数字を把握し、例題をより多く解くことで自身のスキルが高まります。転職先の企業が求める理想の人材に近づくために、フェルミ推定への理解を深めてみてはいかがでしょうか。