転職のタイミングや転職先が決まっているかどうかで、住民税の納付方法や納付時期は変動します。誤って滞納すると延滞金が発生して本来納めるべき税額よりも高くなるため、転職の際は住民税の納付について理解しておくことが大切です。本記事では、転職時の住民税の扱いや注意点などについて詳しく解説します。
住民税の基礎知識
住民税は、日本に在住している場合に発生する税金のひとつです。まずは、住民税額の決まり方や納付方法の種類について詳しく解説します。
住民税額の決まり方
住民税額は「所得割額+均等割額」で計算します。このうち、所得割額は前年の所得で決まります。所得割額の計算方法は次のとおりです。
(配当割額・株式等譲渡所得割額控除-外国税額控除-寄附金税額控除-住宅借入金等特別税額控除-配当控除-調整控除額)-所得割税率×課税総所得金額 |
これをわかりやすくまとめたのが、以下の計算式です。
(所得額-所得控除額)×所得割税率-税額控除額 |
所得割税率と均等割額は次のとおりです。
所得割税率 | 均等割額 | |
都府県 | 4% | 1,500円 |
市区町村 | 6% | 3.500円 |
住民税の納付方法
住民税の納付方法には「普通徴収」と「特別徴収」があります。
普通徴収とは、市区町村から送付される納付書で一括払い、または4回払いで納付する方法です。
対して特別徴収は、勤めている会社が従業員の代わりに住民税を納税します。給与から毎月天引きされる仕組みのため、普通徴収の4回払いと比べて月々の負担が少なくなります。
転職先が決定済みの場合は特別徴収が可能
転職先が決まっている場合は、特別徴収の継続が可能です。ただし、引継ぎには2ヶ月程度かかるため、それまでは普通徴収で納税するか、前の会社に依頼して空白期間の住民税をまとめて特別徴収してもらう必要があります。
転職先が未決定で退職した場合は普通徴収
住民税は、前年の1〜12月の収入に応じて決まり、翌年6月から納付が始まります。転職先が決まっていない状況で退職した場合の扱いは次の3パターンで異なります。
- 1月1~4月30日までの退職
- 5月1日~5月31日までの退職
- 6月1日~12月31日までの退職
1月1~4月30日までの退職は翌月から徴収
1月1日〜4月30日に退職した場合、退職日から5月31日までに支払われる給与から一括で徴収されます。しかし、退職時の給与や退職金などの額によってはマイナスになることもあるでしょう。この場合は普通徴収に切り替わり、後日自宅に届く納付書で足りない分を自分で納付します。
5月1日~5月31日までの退職は最後の給与から徴収
5月中の退職の場合、残りの納めるべき住民税は5月分のみのため、これまでどおり給与から天引きされます。住民税の一括納付の負担を考慮するのであれば、5月中の退職を検討した方がよいでしょう。
6月1日~12月31日までの退職は徴収方法を選択可
6月1日〜12月31日の退職では、退職日から12月31日分までの住民税を普通徴収で納税します。希望すれば、翌年5月分までの住民税を給与や退職金から一括で徴収してもらうことも可能です。今後の転職活動の予定や収入の目処が立っているかどうかなどを考慮して、自分に合った方法を選択しましょう。
転職時の住民税の注意点
転職時の住民税は、納付時期や納付方法を理解したうえで、次の注意点を押さえておくことが大切です。
引っ越しを伴う場合は納付先に注意
住民税を納付するのは、納付年度における1月1日時点で住民票がある市区町村です。例えば、年度途中に引っ越しした場合は、引っ越し先の市区町村ではなく、旧住所の市区町村に納める必要があります。つまり、新住所の市区町村に住民税を納めるのは、住民票を異動した年の翌年からです。
同じ市区町村内での引っ越しの場合は住民票の異動は不要なため、納付先は変わりません。
引っ越し時は住所異動の手続きが必要
引っ越しする際「旧住所と新住所の両方から住民税を徴収されるのでは」と不安に感じる方もいるでしょう。住民税は、1月1日時点で住民票がある市区町村にのみ納税するため、二重取りされる心配はありません。
別の市区町村へ引っ越す場合は、住民票の異動が法律で義務づけられているため、翌年からは新住所の市区町村に納付します。住民票を異動しなければよいと考える方もいるかもしれませんが、別の市区町村に引っ越した場合は、14日以内に住民票の異動手続きが必要です。
期限までに住民票を異動しなかった場合は、5万円以下の過料が適用される恐れがあります。(住民基本台帳法第二十二条および第五十二条)
納付を遅れると延滞金が発生する
住民税の納付が遅れると延滞金が発生し、本来納めるべき税額よりも多額の住民税を納めることになります。延滞金の計算方法は次のとおりです。
税額×延滞日数×延滞金の割合÷365日 |
納付期限の翌日から1ヶ月後までの延滞金の割合は以下のとおりです。
- 令和3年1月1日から令和3年12月31日まで:2.5%
- 令和4年1月1日から令和5年12月31日まで:2.4%
また、納付期限の翌日から1ヶ月を経過した日以降の延滞金の割合は、以下のように大幅に増加します。
- 令和3年1月1日から令和3年12月31日まで:8.8%
- 令和4年1月1日から令和5年12月31日まで:8.7%
出典:東京都主税局「税金の支払い」
例えば、令和4年4月1日において、税額が5万円で延滞日数が20日の場合、延滞金は次のように計算します。
5万円×20日×2.4%÷365日=65円 |
少額に思えるかもしれませんが、何年も滞納すると税額が膨らむとともに差し押さえを受けるリスクも高まるため、なるべく早く納付することが大切です。
前年が無収入の場合は課税されない
住民税は前年の所得に応じて課税されるため、前年の収入が0円の場合は住民税は課税されません。なお、育休や休職によって給付金を受け取っていたとしても、これらは課税所得には含まれないため、住民税の納付は不要です。
特別徴収ができないケースもある
前提として、普通徴収と特別徴収は従業員が自由に選べます。ただし、以下に該当する会社は特別徴収を選択肢として取り入れる義務はありません。
- 全ての従業員の人数が2人以下
- 給与が少なくて天引きができない
- 給与の支払いが不定期
まとめ
退職した日や前年の所得、会社が特別徴収を行っているかどうかなどによって、転職時の住民税の扱いが異なります。誤って納付期日を過ぎてしまうと延滞金が発生し、本来よりも多くの住民税の納付が必要になるため注意が必要です。今回、解説した転職時の住民税の扱いについて確認し、適切に対応しましょう。