採用のための選考は、企業が求職者の採用判断に必要な情報を得るために行います。そのため、経歴詐称をした場合は正常な選考ができなくなり、結果として企業に適していない人物を採用してしまう恐れがあります。求職者は、経歴詐称の問題点や罰則について理解し、正しく経歴を応募書類に記載することが大切です。本記事では、経歴詐称の意味や種類、発覚する理由、罰則などについて詳しく解説します。
経歴詐称とは
経歴詐称とは、自身の経歴や学歴、職歴などについて誇張したり、嘘をつくことを指します。故意かどうかに関係なく、まとめて経歴詐称と呼びます。結果的に企業側が大きなダメージを受ける行為のため、求職者は故意はもちろん過失による経歴詐称にも注意が必要です。
経歴詐称の種類
経歴詐称には、以下のような種類が存在します。
内容 | 例 | |
学歴の詐称 | 学歴や大学名を偽る | 実際には高卒であるのに大卒と偽る |
資格の詐称 | 資格の有無や種類を偽る | FP資格を所有していないのにFP1級と偽る |
職歴の詐称 | 過去に勤めた勤務先や勤続年数を偽る | 数年の空白期間を隠蔽する |
年収の詐称 | 現在の年収を偽る | 転職先に現在の年収が300万円であるのに500万円と偽って年収交渉をする |
犯罪歴の詐称 | 犯罪歴の有無や種類、内容などを偽る | 窃盗で有罪判決を受けたことを隠す |
病歴の詐称 | 労働を行うにあたり支障が生じる可能性が高い、合否に大きく影響を与える重大な病歴を偽る | てんかん発作によって運転業務を行うことに重大な危険を伴うことを理解しているにもかかわらず、病歴を隠した |
それでは、意図的に起こすものと過失によるものに分けて詳しく見ていきましょう。
意図的に起こすもの
採用担当者に好印象を与えるために、経歴や学歴、犯罪歴、病歴などを意図的に偽るケースがあります。例えば、大卒以上を応募条件としている企業に対して、高卒であるのに大卒と偽ったり、知名度が低い大学出身であるのに有名大学出身と偽るといったことが該当します。
また、空白期間があると理由を詳しく質問される恐れがあるため、会社勤めが途切れたことがないと偽るケースもあります。このように意図的に経歴詐称したことが発覚した場合は、内定の取り消しや損害賠償請求を受けるほか、罪に問われる可能性も否定できません。
例えば、資格手当の支払を受けるために経歴を詐称した場合は、詐欺罪に問われる可能性があります。また、高卒を大卒と偽る、有名企業に勤務していたと偽るなどの行為は軽犯罪法に抵触します。
過失で起きるもの
過失で起きる経歴詐称は、記載ミスや認識の誤りが原因で起こります。例えば、卒業年度や前職の在籍期間の年月日を書き間違えることがあるでしょう。ただし、1年しか勤めていないのに5年勤めたことにした場合は、単なる書き間違いとは判断されないでしょう。
過失による経歴詐称は、意図的なものに比べて事実との差が小さく、発覚したときの企業側の印象もそれほど悪くはならないと考えられます。ただし、会社によって考え方が異なるため、損害賠償請求を受ける可能性が低い一方で、内定が取り消される可能性は十分にあるでしょう。
経歴詐称の例
経歴詐称は、小さなものから大きなものまでさまざまなパターンがあります。よくある経歴詐称の例について詳しく見ていきましょう。
最終学歴を偽る
高卒なのに大卒と偽る、実際とは異なる専攻や学部を応募書類に記載するなどが挙げられます。学歴に対する考え方は企業で異なるものの、採用の条件を大卒限定としている企業も多くあります。高卒者は大卒限定の求人に応募する資格がないため、転職先候補を見つけるのに苦労することもあるでしょう。そのような場合に、最終学歴を偽ることがあります。
有名大学の卒業生を偽る
有名大学の卒業生であると偽るケースがあります。有名大学出身者を優遇する、または専らその出身者を採用する企業もあるため、このようなケースが生じると考えられます。
資格を偽る
実際には取得していない資格や免許を保有していると偽るケースがあります。例えば、社会保険労務士資格を持っていないのに持っていると伝えたり、持っているのはFP2級であるのに上位資格のFP1級を持っていると偽ったりします。
前職の雇用形態を偽る
前職が非正規雇用であったにもかかわらず、正規雇用であったと偽るケースがあります。非正規雇用者が正規雇用で採用されることは難易度が高いため、以前から正規雇用であったと偽るものと考えられます。
過去の実績を偽る
有名大学出身者を優遇する、実際には関与していないプロジェクトに参加したと偽るケースがあります。優秀な経歴・学歴の出身者を積極的に採用する企業もあるため、このようなケースが生じると考えられます。また、過去に1ヵ月で1,000万円を売り上げたなど、数値の実績を偽ることもあるでしょう。過去の実績は発覚しづらいため、企業側としても警戒しています。
経歴詐称が発覚する理由
経歴詐称が発覚しないケースもありますが、多くは応募書類と関係書類の整合性が取れていなかったり、面接での発言と一致していない場合に発覚します。経歴詐称が発覚する理由について詳しく見ていきましょう。
年金手帳や雇用保険被保険者証
年金手帳には、年金の入金日が記載されているため、履歴書に記載されている経歴の日付が一致しない場合は経歴詐称が発覚します。また、雇用保険被保険者証には前職の企業名が記載されているため、一目で経歴詐称がわかります。
退職証明書
退職証明書には、在籍期間や退職日などが記載されています。履歴書の記載内容と一致しない場合は、経歴詐称が発覚します。ただし、退職証明書の提出を求めるかどうかは企業によって異なります。
源泉徴収票
源泉徴収票には前職の年収が記載されているため、年収の詐称が発覚します。また、一般的に非正規雇用よりも正規雇用の方が年収が高いため、雇用形態の詐称も発覚する可能性があります。例えば、前職は正規雇用と伝えていたにもかかわらず、源泉徴収票には年収120万円と記載されている場合は、非正規雇用であったことを疑われるでしょう。
免許や資格に関する証明書
免許や資格を保有していることを企業側に伝えると、その証明書の提出を求められる場合があります。証明書は該当する免許や資格を持つ人物でなければ交付を受けられないため、企業に提出できません。
卒業証明書
卒業証明書の提出は必須ではありませんが、企業の方針によっては提出を求められます。卒業証明書には学校名・学部名・卒業日などが記載されているため、履歴書の記載内容と異なるために経歴詐称が発覚します。
経歴詐称が発覚した場合はどうなる?
経歴詐称が発覚した時点で、選考は中止となることが一般的です。また、すでに雇用契約を締結している場合は、実際の経歴であれば採用していなかったとのことで、懲戒解雇される恐れがあります。懲戒解雇は最も重いペナルティであり、即時解雇となります。
また、履歴書に懲戒解雇を記載する必要はありませんが、懲戒解雇された旨を伝えなければ経歴詐称と捉えられる可能性も否定できません。つまり、一度でも懲戒解雇されると今後の転職活動がより厳しいものとなります。
まとめ
経歴詐称は内定の取り消しや損害賠償請求、懲戒解雇など今後の人生に大きな影響を及ぼす可能性もあるため、絶対に行うべきではありません。履歴書と採用時に提出する書類の内容に差異がある場合は、経歴詐称を疑われる可能性があります。意図的に起こすものと過失で起きるもののどちらも企業にマイナスの印象を与えるため、十分に注意しましょう。