昨今のビジネスシーンでは、デザインの考え方や手法を通じて課題を解決する「デザイン思考」が求められます。ユーザーの抱える悩みを解消したり、新たな価値を創出したりするために必要なデザイン思考について、詳しく理解できていない方も多いでしょう。
今回は、デザイン思考の概要や注目される理由、類似する思考や実戦によるメリット・デメリットを紹介します。デザイン思考を実践するうえで、覚えておきたいプロセスや関連するフレームワークなど、デザイン業界に身を置く際に必要不可欠なポイントも解説しています。
デザイン思考を身につけて業界・企業で自身のスキルを活かしたい方は、本記事の内容を参考にしてください。
デザイン思考とは
デザイナーがデザインを考案する際のプロセスを、ビジネスシーンで発生する課題解決に用いる考え方をデザイン思考(デザインシンキング)といいます。プロダクトにおける課題やニーズなど、クライアントが抱えるビジネス上の課題を、デザインの観点から解決するのがデザイン思考の概念です。
自身が持つデザイン思考を、クライアントの意向に沿って落とし込みながら課題解決につなげるのが一般的な活用の流れです。「デザイン」と聞くと、色や形をイメージするかもしれません。しかし厳密には、クライアントの課題を抽出し、どう解決していくかを考案し実現させていくものです。
デザイン思考が注目される理由
デザイン思考が注目されている背景には、著しく進行している「DX化」があります。昨今、多くの企業がデジタル技術を取り入れ、進化しようとしています。前例のない施策としてDX化を進める企業も多い中で、デジタル思考による課題解決はクライアントとの関わりを続けるうえでも重要なものとされます。デジタル化の波に飲まれないよう、かつクライアントのニーズに応え続けるために、デザイン思考の重要性に注目している企業が多いのです。
デザイン思考と類似する思考
デザイン思考について理解するうえで、混同しやすい思考の種類とそれぞれの違いについて知っておくことが大切です。ここでは、デザイン思考と類似する思考をまとめています。
デザイン思考と類似する思考 | 思考としての特徴 | デザイン思考との違い |
論理的思考(ロジカルシンキング) | 情報の整理を通じて物事の趣旨を明確にする思考 | ユーザーニーズではなく、課題・事象を論理的に解決する |
批判的思考(クリティカルシンキング) | 実践した対策が「正しいか」どうかの効果を検証する思考 | 課題の創出・分析を「客観的」な目線で解決する |
アート思考 | アイデアを創出するための思考 | デザイン思考同様「ユーザーニーズ」を起点にしつつ、自由な発想で課題を解決する |
デザイン思考の実践によるメリット・デメリット
デザイン思考を実際に反映させることで、さまざまなメリット・デメリットがあります。ここでは主な例をまとめているので、参考にしてください。
メリット
デザイン思考を意識してユーザーと向き合うことで、潜在ニーズに寄り添ったサービスの想像が可能となります。トレンドやクライアントの描く理想に対し、明確な解決策を掲示できるようになるのがメリットです。
またデザイン思考はチーム単位で考えるものでもあるため、従業員一人ひとりから多様な意見を吸い上げることができます。そのため、企業全体での「発想」の幅が広がるでしょう。チーム単位で関わることで従業員全員がサービス創出に関わることができるため、企業全体のモチベーションが向上するのもメリットです。
デメリット
ゼロベースでの創出に不向きな点がデザイン思考のデメリットといえます。デザイン思考はあくまで、ユーザーの抱える課題を起点にするものです。そのため、新しい技術やサービスをゼロから作ることは難しいでしょう。
デザイン思考を実践する基本プロセス
デザイン思考を実践する基本プロセスは5段階に分かれています。各項目がどのようなものなのか、詳しく解説します。
1:共感(Empathize)
ユーザー視点で課題を捉え、課題解決につながる「根本」について検討します。アンケートやインタビューなど、ユーザーの意見を吸い上げることで実施できるのが特徴です。
2:定義(Define)
「共感」で得た情報をもとにユーザーの課題や現状を把握します。そのうえで、ユーザーに何が必要なのか仮説を立てるのがこの段階の特徴です。
3:概念化(Ideate)
課題解決につながるアイデアを実際に出していくプロセスです。ブレインストーミングなどを活用し、できるだけ多くのアイデアを出すことが重要視されます。ただし、闇雲に多くのアイデアを出すのではなく、それぞれに根拠があるかどうかも重要です。
4:試作(Prototype)
「概念化」までの段階を終え、実際のサービス・製品に近いもの(プロトタイプ)を作り出すプロセスです。低コストかつ短期間で試作品を用意し、試作段階での課題も明確にしておくことでよりユーザーニーズに沿ったものを生み出せます。
5:テスト(Test)
試作段階で生み出したプロトタイプを、ユーザーに触れてもらうことでテストするプロセスです。テストで得られたユーザーの意見をベースに、製品化に向けたブラッシュアップを繰り返すことで完成に近づきます。
デザイン思考に関連するフレームワーク
デザイン思考を実践する際は、以下に挙げるフレームワークを活用するのがおすすめです。
事業環境マップ・SWOT分析
事業環境マップとSWOT分析は、カテゴリー別にビジネスモデルを精査できるフレームワークです。
それぞれで精査できるカテゴリーは以下を参考にしてください。
事業環境マップ | SWOT分析 |
業界・市場・トレンド・マクロ経済 | 強み・弱み・機会・脅威 |
事業環境マップは、事業において影響力の高い要素を4つの要因に区分けし、現状のユーザーニーズ等を踏まえた事業戦略を可視化できるフレームワークです。業界の動向やニーズの変化に応じて要因を移動・追加・削除することで、現状をふまえた仮説を立てることができます。
SWOT分析は、自社でコントロールできる内部環境と、コントロールが効かない外部環境に要素を分け、それぞれのプラス要因・マイナス要因を割り出すフレームワークです。業界分析や思考整理、マーケティングの初期段階で使用される機会が多く、独自の打ち手や見解を得られるのが特徴です。
共感マップ
共感マップは、ユーザーの視点から物事を考えて、思考・価値観を明確に把握するためのフレームワークです。別名でエンパシーマップとも呼ばれています。ユーザーが見ているもの、聞いているもの、考えていることなどを短い言葉で書き、それらの情報を集めて思考を把握するのが特徴です。ほかにも、発言・行動・ストレス・理想など、さまざまなポイントでユーザーの考えを把握します。
ビジネスモデルキャンバス
9つの要素をベースに、ビジネスモデルを分析するフレームワークのことです。ビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素は、以下を参考にしてください。
- 顧客との関係値:顧客が維持・確立を期待している価値
- 顧客セグメント:価値を創造し、届けたい人(メインターゲットだけでなくニッチなターゲットも含む)
- 提供価値:顧客の抱えている課題を解決するために提供している価値
- チャネル:顧客に事業の価値を届けるためのもの
- キーリソース:顧客に価値を提供するために必要なリソース
- キーアクティビティ:提供価値につなげるための重要なアクション
- キーパートナー:事業における外部リソース・サプライヤー
- 収益の流れ:提供価値が顧客に受け入れられた際に発生する収益
- コストの構造:ビジネスモデルの運営において発生するコスト
まとめ
今回は、昨今のビジネスシーンにおける注目度が高まっている、デザイン思考について解説しました。
多くの企業がクライアントの意向を叶えるために、デザイン思考の重要性に目を向けています。自身のスキルとしてデザイン思考をアピールできれば、転職活動に活かせるかもしれません。
自身の考え方を見直すだけでなく、実践レベルのスキルを身につけるためにも、本記事の内容を参考にしてください。