自己効力感は、ビジネスシーンにおいて実力を発揮するために必要な素質です。似た言葉に自己肯定感がありますが、意味は大きく異なります。ここでは、自己効力感とは何か、その種類や習得するメリット、高める方法などについて詳しく解説します。
自己効力感とは
自己効力感とは、ある状況下で結果を出すための適切な行動を理解し、遂行できるだけの能力を自らが所持しているかどうかを認知することです。自己効力感が高まることで、「その状況下で結果を出せる」と自信を持って行動することができます。
自己効力感が低い方は劣等感を感じる傾向が強く、実際に能力を持っていたとしても行動に移すことができません。反対に自己効力感が高い方は優越感を感じやすく、自身の能力を活かして適切に物事を進められる能力があります。
自己肯定感との違い
自己肯定感とは、自己の存在を肯定し、価値を認識することです。自己肯定感が高い状態では、失敗したとしてもありのままの自分を受け入れられるため、次の機会に頑張る、失敗しても自分の存在が否定されたわけではない、と考えることができます。
このように、自己肯定感は「結果が出ても出なくても自己を受け入れられる力」、自己効力感は「結果を出すために必要な能力が自己に備わっていることを信じることができる力」となります。
提唱者
自己効力感は、スタンフォード大学教授のアルバート・バンデューラ博士が提唱しました。恐怖症を克服した多くの人との関わりの中で、それらの人の共通点を見つけたことをきっかけに、自己効力感という概念を生み出したのです。
その共通点とは、「自分は困難を乗り越えられる」、「現状を打開できる」と自分を信じられるようになったことです。自己効力感が高い人は、高い壁が立ちはだかったとしても、勇気を持って挑戦し、失敗したとしても比較的早く立ち直れる傾向があります。
重要性
自己効力感は、自らの行動を変えるために必要な客観的な判断材料のひとつとなります。このことが社会に認知されたことで、ビジネスシーンのみならず、教育や産業などの分野でも注目を集めています。
自己効力感のタイプ
自己効力感には、「自己統制的自己効力感」と「社会的自己効力感」、「学業的自己効力感」があります。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
自己統制的自己効力感
自己統制的自己効力感とは、「自分ならできるはず」と認識することです。結果を出せることを信じられるからこそ、失敗しても比較的早く立ち直ることができます。自己統制的自己効力感が高い人は、新たな業務や新たな職場で活躍できるはずと考えるため、周りの人からは挑戦的に見えます。
社会的自己効力感
社会的自己効力感とは、「自分ならきっと他者と良い関係を築けるはず」と認識することです。誰かに敬遠されたとしても、自分なら仲良くなれるはずだと考え、行動できるようになります。
学業的自己効力感
学業的自己肯定感とは、学業における達成感によって高まる「自分ならできるはず」と認識する力です。難関校への合格のように、学業で成果を出すことで学業的自己肯定感が高まります。「新しいスキルを獲得する」、「カリキュラムに従って勉強を進める」などの場面で自信を持つことができます。
自己効力感を構成する要素
自己効力感は、「結果予期」と「効力予期」で構成されています。これは「この方法でやれば成功するだろう」と予想する行動遂行前の思考パターンを指します。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
結果予期
「結果予期」とは、過去に得た知識や経験をもとに行動を取ると、どのような結果になるのかを推測することです。過去に得た知識・経験・成功体験など、具体的な実績が伴う経験から結果を予期するのが特徴です。結果予期ができると、問題が生じた際に具体的かつ順序立てた解決方法がわかるようになります。
例えば、営業成績が伸び悩んでいる新入社員に対してアドバイスする場合、
・「自分が過去に成功した営業手法をレクチャーする」
・「成績が伸びない原因はどこにあるのか自己分析をさせる」
・「受注見込みが高い顧客を分析してリストアップさせる」
など、これまでに得た知識や経験を活かして具体的な方法を提示するのが特徴です。
効力予期
「効力予期」とは、結果を出すために必要な行動を、自分ならうまく実行できると確信することを指します。過去の経験や実績に紐づいた予測を行う結果予期とは異なり、“裏付けのない自信”を元に予期を行うという特徴があります。効力予期ができれば問題解決に必要なアクションを自信を持って遂行できるため、「解決策が思い浮かぶものの実行できない」という事態を避けることができます。
同じく営業成績が伸び悩んでいる新入社員に対するアドバイスを例にとると、
・「自分の得意な営業手法を編み出せるように導く」
・「自分の能力と素質を信じて営業を続けるように励ます」
などの方法が当てはまります。効力予期で他人にアドバイスする場合、「自分なら上手く導ける」と確信して予測するだけでなく、他人に対しても「能力を活かして物事を遂行できる」と予想する傾向があるのも特徴です。
自己効力感を高めるメリット
自己効力感は、ビジネスや教育、産業などさまざまな分野で欠かせないものです。自己効力感を高めることによって得られるメリットは次のとおりです。
挑戦する気持ちが強くなる
自己効力感が高まると自信を持って行動できるようになります。新たな業務、職場でも自分なら活躍できると信じられるため、挑戦する気持ちが強くなるでしょう。また新たなことに取り組むスピード感も向上します。
過度なネガティブ思考を防げる
失敗しても、次はどうすれば成功するかを考えられるため、過度なネガティブ思考に陥るリスクを抑えることができます。
自己効力感を測る方法
自己効力感を測定する際は、「一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)」を活用します。これを提唱したのは、前述のアルバート・バンデューラ博士です。
人間の行動は「先行要因」、「結果要因」、「認知的要因」に分類され、自己効力感によって行動が決まるとの考え方があります。それに基づいた自己効力感を測定する16種類の質問をアンケート形式で行い、対象者には「はい」か「いいえ」で回答してもらいます。答えた得点が高ければ高いほど、自己効力感が高いということになります。
自己効力感を高める方法
自己効力感には過去の経験が深く関係しています。そのため、今すぐに自己効力感を高めることはできませんが、次の方法を実践すれば最短で自己効力感の向上が見込めます。
成功体験を重ねる
成功体験を重ねることで自分の能力を正しく理解できるうえに、自信を持てるようになります。成功体験といっても、小さな目標を達成した、上司に褒められたなど、小さな成功体験でかまいません。
代理体験を重ねる
代理体験とは、他者の成功をまるで自分の体験かのようにイメージすることです。成功という結果だけではなく、その過程を見ます。自分の能力や経験を踏まえ、「自分でもできそう」と本気で思ってこそ、代理体験の効果を得ることができます。
他人の言葉を変換して受け入れる
励ましの言葉、アドバイスなど、自分に対する言葉をポジティブに変換し、受け入れることで自己効力感を高めることができます。例えば、できていないことを指摘された場合は、「ほかの部分はできている」とポジティブに変換します。
生理的な状態を意識する
いつもと同じ状態にあることを認識することで「いつも通りだから大丈夫」という自信に繋げる方法があります。自己効力感を高めるのに効果的なのは、心身の健康状態を維持することです。一般的に生理的に不快な状態が続くと、「普段のパフォーマンスを発揮できないのではないか」という不安が生まれてしまいます。睡眠不足・栄養不足・運動不足・過度のストレスなどを避け、規則正しい生活を心がけることで、自信に満ちた状態で行動・判断できるようになります。
まとめ
自己効力感が高まると、自信を持って行動できるようになります。そのため、能力を存分に発揮し、結果を出せるようになるでしょう。反対に、自己効力感が低い場合、能力があるのに結果が出ない事態に陥りがちです。今回、解説した自己効力感を高める方法をぜひ試してみてください。