経営手法が多様化している近年のビジネスシーンでは、「合同会社」という言葉を見かけることが多くなりました。会社法で定められている会社形態のひとつですが、詳しい内容についてはわからないという方も少なくありません。この記事では、合同会社の概要や他の会社形態との違い、設立するメリットなどについて解説します。
合同会社とは
合同会社とは、アメリカで普及した会社形態「LLC(Limited Liability Company)」がモデルとなった会社のことです。日本では2006年の会社法改正で新設されました。合同会社ABCという名称の場合は「ABC LLC」と表記されるケースがほとんどですが、「Inc.」「GK」のような英語表記を使用する場合もあります。
合同会社と株式会社の違い
合同会社と株式会社の大きな違いは「経営者と所有者が同一かどうか」です。
合同会社は「出資者=経営者(社員)」の構図となるため、経営者と所有者が一致しています。株主総会を開催する必要がなく、出資比率によって利益配分や発言権が異なることもありません。役員任期の制限がない点も大きな特徴です。
一方、株式会社は経営者と所有者が分離しており、定期的に株主総会を開催する必要があります。出資比率によって利益配分や発言権が異なるため、経営方針などに大きな影響を与えます。また、役員任期は最長で10年の制限があります。
合同会社が増えている背景
合同会社は2006年に会社法改正で新設されて以来、増加を続けており、政府統計の総合窓口e-Stat「合同会社の登記の件数」によれば、2021年には約97,000社となっています。
合同会社は、株式会社と比較して設立・運営コストがかかりません。また、出資者と経営者が一致しているため、組織の意思決定がスムーズになる特徴があります。このような背景から、合同会社は増加傾向にあります。
合同会社における役職
合同会社には、通常の株式会社とは少し異なる役職が存在します。ここからは、合同会社における役職について詳しくみていきましょう。
代表権を行使できる「代表社員」
代表社員とは、株式会社における代表取締役と同一の地位にある役職です。通常、合同会社は「出資者=社員」となるため、全員に業務執行権と代表権があります。
ただし、この状態だと代表者が分からず、取引を混乱させる恐れがあります。また、それぞれが勝手に代表権を行使してしまうと社員同士の意思疎通が取れません。これらの状況を防ぐためにも、代表権を行使できる代表社員を定款で定めることが一般的です。加えて、状況に応じて代表社員を複数選出できるルールにすることで、混乱を回避しやすくなります。
業務執行権を行使できる「業務執行社員」
業務執行社員とは、株式会社における取締役と同一の地位にある役職です。出資者の中には、経営には参加したくないという方もいます。
その場合、定款で経営に携わる人数を絞り、業務執行権を与えることが可能です。定款を定めた後、業務執行権を行使できるのは業務執行社員のみとなります。代表社員と同様に、業務執行社員も複数人選出することが可能です。
合同会社を設立するメリット
合同会社が年々増加しているのは、株式会社と比較して設立のメリットが多いことに理由があります。ここからは、合同会社の設立によって得られるメリットについて解説します。
設立にかかる費用を抑えられる
合同会社には、設立にかかる初期費用を抑えやすいというメリットがあります。合同会社を設立する際にかかる費用は次の通りです。
- 登録免許税:60,000円
- 電子定款認証料:2,000円
次に株式会社を設立する際の費用をみていきましょう。
- 登録免許税:150,000円
- 電子定款認証料:5,000円
- 公証人手数料:52,000円
合同会社の設立費用が62,000円なのに対し、株式会社の設立費用は207,000円と大きな差があります。つまり現状では、合同会社のほうが圧倒的にコストを抑えて会社を設立することができます。
経営の自由度が高い
合同会社は原則出資者が全員社員となるため、定款によって自治運営が可能になります。事業に応じて柔軟かつスピーディーに意思決定できることから、自由度の高い経営ができるでしょう。
株式会社では出資者と経営陣が異なるため、経営の方向性にずれが生じやすい課題を抱えています。新規事業の立ち上げや方針転換に関しては、株主総会などを開催して合意を求める必要があり、合同会社と比較すると自由度の高い経営は難しい傾向にあるでしょう。
法人の節税メリットを得られる
合同会社を設立すれば、法人の節税メリットも得ることができます。役員報酬として所得を調整しやすいため、実質的に取得税・住民税等の減額が可能になります。
法人は基本的にすべての支出が事業に関連しているとみなされるため、経費として認可される範囲が限定的な個人事業主とは違い、節税効果をより多く得ることができます。
定款の認証や決算公告の必要がない
株式会社を設立する場合、定款の作成と公証人による定款の認証が必要です。また、規模にかかわらず、すべての株式会社は決算公告を菅報などで行わなければなりません。
一方、合同会社の場合、定款の作成は必要なものの、定款の認証や決算公告は不要です。会社の設立・運営の手間がかかりにくい点も、合同会社のメリットといえるでしょう。
合同会社を設立するデメリット
合同会社の設立にはいくつかの注意点も存在します。ここからは、合同会社を設立するデメリットについて項目ごとに紹介します。
株式会社と比べて認知度が低い
合同会社は小規模かつ閉鎖的な会社形態であることが多いため、株式会社と比べて認知度が低い傾向にあります。優秀な人材の確保が難しかったり、取引先によっては契約してもらえなかったりと、信頼獲得が難しくなってしまうケースがあります。
社員同士が対立する恐れがある
合同会社は出資者であれば必ず議決権を持っており、出資比率は関係ありません。そのため、出資者である社員同士が方向性の違いによって対立する恐れがあります。対立が深まると経営や業務に大きな影響を与えてしまうため、注意しなければなりません。
資金調達の手段に制限がある
出資者である社員は出資比率に関係なく平等な発言権があるため、株式数によって株主の権利が付与される株式会社とは異なり、出資による資金調達を自由に行うことができません。資金調達の手段は金融機関からの融資が中心となるため、資金調達の手段に制限が生じます。
合同会社を設立するまでの流れ
合同会社を設立するまでのステップは次の通りです。
- 合同会社の基本事項決定
- 定款作成
- 出資金の払い込み
- 登記申請
- 税務署や官公署へ届け出
- 事業の運営開始
それぞれの手順では公的書類の作成や申請が必要になるため、会社設立の専門家に相談することがおすすめです。また、合同会社の基本事項で定めるものとしては、「社員」「会社名」「事業目的」「本店住所」「公告方法」「決算月」「資本金」などの項目が挙げられます。
合同会社の設立に資本金はいくら必要?
合同会社を設立する場合、資本金は最低1円以上が必要です。ただし、資本金の出資額は会社運営だけでなく信頼を得る意味合いも含まれるため、最初にある程度の額を設定することが一般的です。また、合同会社は形態的に、事業を担う社員すべてが出資者である必要があります。そのため、事業を担う人数によって必要な資本金額が変動することを理解しておかなければなりません。
合同会社に向いている業種
一般的に消費者は、会社形態よりもサービス力やブランド力を重視します。そのため、ITサービスや飲食店、サロン、スーパーなど、一般消費者向けの事業は合同会社と相性が良いといえるでしょう。また、個人事業をベースに共同経営者を誘って起業する場合や、家族や仲間内で経営する小規模事業にも合同会社は向いています。
まとめ
合同会社は、2006年に新設された新しい会社形態です。株式会社と比べると低コストで会社の設立・運営ができることから、リスクを抑えて事業を始めたい方には最適な企業形態といえます。徐々に事業を大きくしたい場合は、まずは合同会社で法人化し、業績を見ながら株式会社への切り替えを視野に入れておくとよいでしょう。