「ティール組織」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。会社組織のあり方に関する用語で、近年大きく注目を集めています。ティール組織の考え方を導入することで成果につなげている企業もあるため、覚えておくべきビジネス用語といえるでしょう。今回はティール組織の意味や特徴、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
ティール組織とは
ティール組織は、組織をひとつの生命体として捉え、社長や上司によるマネジメントがなくても組織の目的達成のために行動する組織を指します。ティール組織という考え方は、フレデリック・ラルーの著書「Reinventing Organizations」によって紹介されました。その中で、ティール組織は旧来型の組織とは一線を画す新たな組織のあり方として提唱されています。
ティール組織の3つの要素
ティール組織の構成には、3つの欠かせない要素があります。
エボリューショナリーパーパス(存在目的)
はじめに紹介するのが「エボリューショナリーパーパス」という、「存在目的」と訳される要素です。組織が何のために存在しているのかをメンバー全員が深く追求し、理解することが重要だとされています。ティール組織において、その存在目的は環境の変化によって進化するものだと考えられています。
セルフマネジメント(自主経営)
「セルフマネジメント」は「自主経営」と訳される要素です。ティール組織においては、メンバーそれぞれが意思決定の権利を持っています。裁量権があるため誰かの指示を仰ぐことなく、自分が決めた目標を達成するための力を組織の運営にも活用できます。ティール組織ではすべてのメンバーが平等に権限を持っており、部門や役割といった従来の考え方はありません。その代わり、状況に応じてさまざまなルールを生み出し、運用していきます。
ホールネス(全体性)
最後は「全体性」と訳される「ホールネス」です。ティール組織では、メンバー全員が平等な関係であるからこそ、多様性を認め合う考え方が重視されます。誰もが否定されることなく、公平に評価され、認められる場なのです。これによりメンバーはさらなる成長を目指し、組織自体が継続的に成長していきます。
ティール組織に至る5つの段階
組織が「ティール組織」の状態に至るまで、5つの段階を踏みます。それぞれどのような特徴があるのか確認してみましょう。
レッド組織(衝動型)
レッド組織はもっとも原始的で、圧倒的な力を持つ特定の個人が支配的にマネジメントする、オオカミの群れのような組織といわれます。目の前の出来事に対して衝動的に行動するだけで、中長期的な目線での組織運営は行われていません。個人の力に強く影響されてしまい、目先の利益だけを優先してしまう状態です。
アンバー組織(順応型)
アンバー組織は軍隊のように階級が分けられており、メンバー間の上下関係によって秩序が保たれている組織です。指示命令系統が明確になり、特定の個人への依存がレッド組織よりも軽減されます。一方で、新たな発想や意見が生まれにくい構造であり、環境の変化や競争への対応が困難になる課題も持ち合わせています。
オレンジ組織(達成型)
「オレンジ組織」はアンバー組織のように階層的構造は存在するものの、成果を上げたメンバーは出世できるという組織の状態です。アンバー組織よりも個人の才能や能力が発揮され、現代の日本社会においてもっとも一般的な組織モデルだといわれています。しかしその反面、メンバーは徹底された数値管理の元で成果を上げ続けるため機械のように否応なく働き続けなければなりません。そのため、次第に人間らしさが失われてしまうという危険性も孕んでいます。
グリーン組織(多元型)
「グリーン組織」は、オレンジ組織と比べてメンバーそれぞれが主体性を持って行動できる組織です。個人に焦点が当てられるため多様性が尊重され、ボトムアップでの意思決定につながります。非常に風通しが良い組織ではありますが、決定権は社長が有している状態です。また、個人が尊重される分、オレンジ組織のような合理性は失われているため、メンバー間の合意形成に時間がかかることもあります。
ティール組織(進化型)
今回紹介する「ティール組織」が、最後の段階です。ティール組織には権力者が存在せず、メンバー全員が信頼関係のもとで独自のルールを制定しながらそれぞれが判断します。組織を1つの生命体として捉え、組織の目的を達成するために自分ができることを実施します。結果、自己成長がそのまま組織の成長にもつながるでしょう。メンバーは皆フラットな関係で、組織はメンバー全員のものだという意識があります。
ティール組織のメリット
ティール組織であることのメリットを紹介します。
メンバーの当事者意識が高まる
自分が裁量権をもつ重要なメンバーであるため、「自分の考えや行動が組織を左右する」という意識が強く働きます。全員が高い当事者意識を持って行動することで、最大限の働きができる組織へと成長できることでしょう。
計画を実行するメンバーが増える
従来の企業の場合、計画を実行するのは主に部下の役割であり、上司は計画を考える存在として立場が分かれています。一方、ティール組織では、指示命令系統が存在しておらず、メンバーそれぞれが目的を達成するために考え行動します。全員がプレイヤーであるため、生産性の向上に直結します。
変化に順応しやすい組織になる
社員それぞれが高い当事者意識を持っていることがティール組織の特徴です。そのため、大きな変化や不測の事態が発生した際にも全員が自分のこととして捉え、即座に対応します。従来型の組織では上司の指示を待っていたであろう時間に自分の判断で行動できるため、柔軟性の高い組織が実現します。
ティール組織のデメリット
ティール組織には多くのメリットがあることがわかりました。一方で、これまでになかった新しい組織であることから、導入にあたってはデメリットも考えられます。
自己管理ができないと組織が成り立たない
ティール組織の運用にあたっては、メンバーの自己管理能力が必要不可欠であるといえます。ティール組織を構成する要素にも、セルフマネジメントが謳われていますが、上司やリーダーという概念が無いため、自己管理ができない社員はティール組織のメンバーとしての働きを全うできません。
リスク管理が困難な場合がある
ティール組織では、リスクの管理が難しい点もデメリットとして挙げられます。例えば新たに立ち上げるプロジェクトの収益性が低い場合でも、指示命令系統が存在しないティール組織ではメンバー同士の関心が高いという理由で実行し、リスクを見逃してしまう可能性があるのです。
プロジェクトの進捗管理が難しい
ティール組織ではメンバーそれぞれに裁量権があり、管理する立場の人間がいません。そのため、進捗管理が困難になります。自分以外のメンバーが今現在どのような進行状況になっているか把握しづらく、上司が部下に行うようなサポートもしづらい環境です。管理ツールなどを用いて、進捗状況の共有に努める姿勢が求められるでしょう。
ティール組織の事例
最後に、ティール組織を実際に導入している企業の事例を紹介します。先進的な取り組みがどのような成果をもたらしたのか確認してみましょう。
ビュートゾルフ
オランダで在宅ケアサービスを提供する「ビュートゾルフ」は、オレンジ組織からティール組織へと進化した企業です。最大12人の独立した看護師チームが、地域の40〜50人を対象として小規模運営を行っています。各チームが自主運営という形式で計画を作成・実行することで、スタッフの責任感とモチベーションが高い状態での在宅ケアサービスを実現しています。
サイボウズ
ソフトウェア開発企業のサイボウズでは、ティール組織を構成する要素のうち、主にセルフマネジメント(自主経営)の考え方を取り入れています。ティール組織の考え方が従業員にも浸透しており、従業員からの発案に応じて部長職を廃止したり、転勤手当を廃止したりとティール組織化に取り組み始めています。会社の重要な経営会議にもメンバーの誰もが参加できるようになっており、情報がオープン化された風通しの良い組織づくりを実現しています。
まとめ
ティール組織は多くのメリットがある反面、その難しさもあって今の日本社会への導入は決して簡単ではありません。ティール組織に至るまでの段階を把握していると、自分が所属している会社の立ち位置が分かります。また、転職活動の目安にもなるでしょう。先進的なティール組織のあり方をもとに、組織がどのようにあるべきか今一度考えてみることも大切です。