ポジティブアクションは、男女間の差別を解消するための取り組みを指すものです。この取り組みにより、女性社員が更に活躍できる環境を整えるだけでなく、企業のイメージ向上にも繋がるとされています。この記事では、ポジティブアクションのメリットや企業の取り組み事例を解説します。ビジネスパーソンが押さえておきたい基礎知識を中心に解説するので、ぜひ参考にしてください。
ポジティブアクションとは
ポジティブアクションとは、社会における男女間の格差を解消するために、企業が自主的に行う取り組みのことです。男女間の格差とは、「管理職に女性がいない」「特定の部署はほとんど男性が占めている」といった事例が挙げられます。政府によって推進されていることから、多くの企業が仕事内容や賃金などの男女間格差解消に取り組んでいます。
ポジティブアクションが注目される背景
ポジティブアクションが注目される背景として、日本における女性の社会進出の水準が低いことが挙げられます。雇用の機会における男女格差をなくすための法律として、1986年に「男女雇用機会均等法」が定められました。しかし、この法律はあくまでも雇用に関することのみで、企業内の男女格差については法律でカバーされていません。そこで、男女共同参画局などの政府機関が推進し、企業が独自に取り組み始めたのがポジティブアクションです。性別に関係なく個人の能力が正当に評価され、自分の意志でキャリアを構築できる社会を目指しています。
ポジティブアクションに取り組むメリット
ポジティブアクションは企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、その中でも代表的なメリットを3つご紹介します。
優秀な人材が集まりやすくなる
ポジティブアクションの実施によって、これまで男女間格差のせいで参入できなかった優秀な女性が組織に加わりやすくなります。性別問わず間口を広げることで、さまざまな能力やスキルを持った人材と出会えるでしょう。また、多様な価値観を取り入れることによって、新しいアイデアの創造や業務の効率化につなげていくことも可能です。
会社のイメージアップにつながる
ポジティブアクションに取り組む企業は、「差別をなくそうとしている企業」「性別や肩書でなくスキルや能力を重視する企業」といった前向きな印象を持たれやすくなります。顧客・株主・取引先などに対するイメージアップにつながります。
助成金を受け取れる
2014年4月より、ポジティブアクションに取り組む企業に対して「ポジティブ・アクション能力アップ助成金」が支給されるようになりました。助成金を受け取るためには、以下の5つの取り組みをすべて実施することが必要です。
- ポジティブアクションに関する数値目標を設定している
- ポジティブアクションに関する研修を30時間以上実施している
- 「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」内の「ポジティブ・アクション応援サイト」か「女性活躍推進宣言コーナー」に数値目標と代表者名を掲載している
- 掲載日から6ヵ月経過したあと、3年以内に数値目標を達成している
- ポジティブアクション研修に少なくとも1名以上の女性労働者が参加している
ポジティブアクションのデメリットは?
ポジティブアクションを誤った方法で実施してしまうと、男性社員のモチベーションが下がるリスクがあります。「女性ばかり採用する」「能力に関係なく女性ばかり管理職に登用する」といった極端な行動を取らないように、企業全体で配慮する必要があります。実際に諸外国では、極端な採用による行き過ぎたポジティブアクションのトラブル事例があります。
ポジティブアクションに取り組む際のポイント
実際に企業がポジティブアクションに取り組むケースでは、どのような手順・ポイントを守って行われるケースが多いのでしょうか。ここからは、実際にポジティブアクションに取り組む際の具体的な手順を紹介します。
女性社員を積極的に採用する
女性が活躍しやすい環境を作るためには、まず女性社員を積極的に採用し、その数を増やす必要があります。女性が少ない業界や企業の場合は、求人票やホームページで女性の働きやすさをアピールする、女性社員の活躍を紹介するといった施策を実施するとよいでしょう。
男女の職域の区別をなくす
社内で男性もしくは女性に偏っている業務や部門がある場合は、男女の格差をなくす工夫をしていきましょう。例えば「女性でも使いやすい設備を導入する」「慣習的に女性が担当することが多かったお茶出しやゴミ捨てなどの業務を男性が引き受ける」といった施策が挙げられます。性別に関係なく職域を選べるようになることで、社員の意欲向上が期待できます。
女性管理職を増やす
管理職が男性のみでは、女性が平等に活躍しやすい企業とはいえません。性別を問わず個々の能力が正当に評価され、自分の意志でキャリアアップを目指せる環境を整える必要があります。また、キャリア相談や管理職研修の場を設けて、モチベーションの向上や自身のキャリアについて考える機会を提供することも効果的です。
長期的に働きやすい環境を整える
女性が同じ企業で活躍し続けるためには、長期的に働きやすい環境を整えて勤続年数を伸ばすことが大切です。特に出産・子育てなどのライフイベントが、キャリアに影響しないように注意する必要があります。テレワークや時短勤務のような柔軟な働き方を取り入れ、仕事と家庭を両立できるような仕組みづくりが重要です。
ポジティブアクションの取り組み事例
日本においても、さまざまな企業がポジティブアクションに取り組んでいます。ここでは、3社の取り組み事例をご紹介します。
野村證券
野村證券ではもともと男女の社員が総合職と一般職で区別されていましたが、個人の能力や適性に合わせて働けるように、男女で職域を分けない採用選考に切り替えました。さらに女性のキャリア推進を目的として、専門家などによる講演会やセミナーを実施しています。その結果、現在は社員の半数近くを女性が占めており、女性管理職比率も順調に増加しています。
日本アイ・ビー・エム
日本アイ・ビー・エムは、1998年時点では各国のアイ・ビー・エムグループのなかでも女性社員の比率や女性管理職の比率が世界最下位でした。そこで、女性社員の比率向上や係長以上の女性管理職比率の倍増を目標に掲げた施策を実施しました。具体的には、採用面接官に女性を配置したり、採用権限のある役職に女性を登用することで採用を強化し、現在ではさまざまな役職やポジションで女性社員が活躍しています。
大成建設
大成建設では2006年から社内の女性活躍推進に取り組み、職域の拡大や、意欲・能力のある一般職の女性の職種転換などの施策を実施しました。その結果、男性の職場というイメージが根強い建設業界でありながら、技術職や管理職にも多くの女性社員が在籍しています。現在は、2025年までに女性管理職を400人以上に増やすという目標を掲げ、さらなる女性の活躍を目指しています。
女性の活躍推進協議会とは?
「女性の活躍推進協議会」とは、行政と経営者団体が連携し、企業に自主的かつ積極的にポジティブアクションに取り組んでもらうように促す仕組みです。2001年から厚生労働省が開催しており、シンポジウムや女性の活躍推進状況診断事業などを通してポジティブアクションの関心度・認知度向上を目指しています。昨今の女性の社会進出を推し進める時代の流れに応じて、今後もポジティブアクションへの意識が高まっていくことが予想されます。
まとめ
この記事では、ポジティブアクションについて解説しました。日本では女性の社会進出が進められていますが、職域や階級などでまだまだ男女差が見られるのが現状です。男女格差をなくすためには、企業が女性社員の採用や管理職登用を積極的に行うのはもちろん、女性が長く働き続けられる環境づくりを行う必要があります。今回紹介した企業の取り組み事例も参考に、男女の働き方について理解を深めておきましょう。