採用した人材の適性を判断するために設けられている制度が、試用期間制度です。試用期間を定めている企業の中でも、具体的な意図や解釈を理解しきれていないこともあるかもしれません。今回は、試用期間の詳細について、研修期間との違いや設定時の項目などの観点で詳しく解説します。試用期間中の退職・解雇や、トラブルについても紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
試用期間とは
試用期間とは、入社した従業員が自社に適した人材かどうかを見極める期間のことです。業務を通じて、スキルや勤務態度、貢献度への期待値などを判断します。適性を見極める重要な期間であり、企業・従業員がお互いにミスマッチを感じても対処しやすいことが特徴です。企業ごとに定めた試用期間を経て、正社員として本採用となることが一般的です。
「試用」とはいえ契約が結ばれていることには変わりないため、企業としてのルールや常識は最低限守らなければなりません。試用期間は、企業と従業員が、お互いを見定めるための重要な期間のことを指します。
研修期間との違い
試用期間は本採用を前提に通常業務を任される期間であることに対し、研修期間は通常業務に至るまでの基礎を学ぶ期間のことです。マニュアルをベースにしたマナー研修やロールプレイングなど、実際の業務をベースにした研修が実施されます。研修期間を経て自社の基本を学んだうえで、実際の業務に触れられる試用期間へ移行します。通常業務の基礎知識を身につけた状態で試用期間に入ることで、ある程度の成果は期待できるでしょう。
試用期間が制度化された理由
試用期間は、面接時の態度や書類だけでは判断できない適性を判断するために、多くの企業で取り入れられています。企業側としては実際の業務に携わらせてみないことには、自社に適した人材かどうかは判断できないでしょう。従業員の目線でも同様で、面接時にいい雰囲気だった企業でも、いざ入社してみるとギャップに苦しむことがあるかもしれません。
しかし、自社に適した人材なのか見極めたうえで本採用になれば、企業にとって有益な採用であったと判断できるでしょう。採用にかかるコストを無駄にせず、かつ戦力を補強するためにも、試用期間の制度化が重要だといえます。
試用期間を設定するときに決める項目
試用期間を設定する場合は、以下で紹介する3つの項目について定めておく必要があります。
試用期間の長さ
試用期間には、期間の上限・下限は定められていません。一般的には3ヵ月ほどが多いようですが、自社が求める期間を設定して問題ないでしょう。3ヵ月ほど設けておけば、適性はある程度判断できます。ただし、専門的な技術を要する業務の場合は、半年ほどの期間を設けておいてもよいでしょう。
あまりに長すぎると従業員のモチベーションを下げてしまうため、1年を超える期間設定はおすすめできません。設定した期間が適性を判断するうえで不足していると感じた場合は、必要に応じた期間の延長も可能です。
給与面
試用期間中の給与は、本採用時よりも減額した金額を設定するのが一般的です。ただし、残業代や交通費などは、本採用時の待遇と同等にしておきましょう。また、試用期間だからといって極端に低い金額にしてしまうと、従業員のモチベーションが下がってしまいます。企業・従業員双方が納得できる給与額を設定し、合意のもと試用期間に入りましょう。
掲示方法
試用期間の掲示方法には、以下が挙げられます。
- 求人票
- 雇用契約書
- 就業規則
試用期間制度があることだけでなく、期間の延長についてや本採用に至らないケースなど、できるだけ詳細に記載したうえで掲示しましょう。
試用期間中の解雇は可能か
試用期間中でも、就業規則に基づいた手続きであれば解雇することは可能です。ただし、自社に適していない人材だからといった曖昧な理由での解雇は「不当解雇」に該当するため注意してください。以下では、試用期間中の解雇についてさらに詳しく解説します。
試用期間中の解雇が認められる事例
以下の項目に該当することがあった場合、試用期間中でも解雇が認められます。
- 履歴書や職務経歴書の虚偽が判明した
- 指導に対する改善がみられない
- 試用期間中に不正行為・危険行為がみられた
- 面接時に可能だと発言していた業務が満足に遂行できない
- 上司の了解を得ない勝手な行動が目立つ
本採用に至るに相応しい人材ではないと総合的に判断できれば、試用期間中の解雇も可能です。試用期間中の解雇が発生することも想定し、就業規則に解雇事由の詳細を記載しておきましょう。
試用期間中の解雇手続きについて
企業で定める解雇事由に該当しているかを確認し、間違いがないようであれば解雇手続きを進めます。必要に応じて、従業員に解雇予告をしておきましょう。
試用期間中の解雇予告は、試用開始から解雇予告までの期間によって若干違いがあるため覚えておきましょう。試用開始から14日未満で解雇したい場合は、解雇予告は必要ありません。ただし、14日以上経過している場合は、解雇日の30日以上前に予告しておきましょう。試用期間が14日以上経過した従業員を予告せず解雇すると、賠償金が発生する可能性があります。
また、解雇予告だけではトラブルにつながる危険があるため、解雇通知書の用意も忘れてはいけません。
解雇以外の対策
試用期間中の態度や実績だけでの解雇は時期尚早だと考える場合は、まずは試用期間を延長してみましょう。また、人材によっては部署や業務内容を変えることで本採用への兆しが見える可能性があります。試用期間の延長や配置換えが不当だと判断されないよう、就業規則に必ず詳細を記載しておきましょう。
試用期間中の退職について
従業員側は試用期間中でも、一般的な退職と同様の手続きを取れば退職できます。企業に対するイメージのズレなどを理由に、試用期間のうちに退職しておきたいと考える方もいるでしょう。ただし、試用期間だからといって即日退職はできません。契約を結んでいる状態であることに変わりはないため、退職日の2週間前までに会社に退職の意向を伝える義務があります。
退職届の提出などの一般的な手続きも必要です。企業側もよっぽど不当な理由でなければ、従業員と相談し、円満に退職できる手続きを進めましょう。
試用期間中のトラブル事例
ここでは、試用期間中に多いトラブルの事例を紹介します。
予告もなしに解雇される
正当な理由を伝えられないまま、予告なく解雇されたという事例があります。試用期間中であっても解雇予告は必要になるため、不当な解雇として訴えられる危険性があります。解雇に至る正当な理由を伝えたうえで、お互い合意のもと解雇手続きを進めましょう。
試用期間を許可なく延長される
当初聞いていた試用期間の終了後、急に延長されたというケースもゼロではありません。解雇予告と同様、正当な理由で延長する場合はその旨を従業員に伝えておく必要があります。企業で定めている試用期間中の成長が見られないという理由であれば、本採用を見送る旨を伝えましょう。
賃金や保険に関する認識の相違がある
当初聞いていた金額と異なり、最低賃金を下回る給与が支払われていたということもあるかもしれません。残業代や交通費など、本来支払われるべき賃金が支払われないことも、トラブルにつながります。また、試用期間とはいえ雇用契約を結んでいるのにかかわらず、社会保険に加入させてもらえないという事例もあります。社会保険に加入できないと年金受給額に影響が出たり、失業保険がもらえなかったりといった不利益につながります。
試用期間後に採用を見送られる
場合によっては、試用期間を満了したうえで本採用に至らないこともあるでしょう。ただし解雇の場合と同様、正当な理由を伝えなければいけません。本採用の見送りは解雇に該当するため、双方の合意があってから成り立ちます。誠実に勤務していたのに本採用にならなかったと判断されないよう、あくまで正当な理由があることを前提に進めましょう。
試用期間中のトラブルを防ぐためには
企業側の都合で採用を見送る、もしくは試用期間中に解雇する場合は、納得できる正当な理由を掲示しましょう。一方的な解雇は厳禁です。試用期間の延長に関しても同様で、延長することに納得できる理由を伝えましょう。
試用期間中に発生しそうなトラブルを未然に防ぐためには、就業規則の見直しが重要です。特に今回紹介したトラブルに該当しそうな項目に関しては、ブラッシュアップが必要です。賃金や保険についてもトラブルになりやすい内容であるため、再度見直して詳細を決めておきましょう。
まとめ
試用期間は、企業・従業員がお互いを見定めるために必要な期間です。面接や書類だけでは判断できない適性を知る機会ともいえます。試用期間は本採用ではないものの、雇用契約を結んでいる状態であることには変わりありません。試用期間中の解雇や退職がトラブルにつながらないよう、正当な理由での予告や就業規則の見直しを実施しておきましょう。