海外や外資系企業などで活用されることが多いアルムナイ制度。ビジネスを取り巻く環境が変化したことで、日本企業でも注目されるようになりました。制度のメリットを取り入れるには、実際にどのような制度なのかをしっかりと理解しておく必要があります。この記事では、アルムナイという言葉の意味や制度を有効に活用するポイントについて解説します。
アルムナイとは
アルムナイ(alumni)とは、「alumnus」の複数形で、「卒業生・同窓生」と訳されます。単語の意味から転じて、ビジネスにおいては「退職者」という意味で使用されるのが一般的です。
アルムナイ制度とは、企業から一度退職した人を再雇用する制度のこと。人材不足が進む日本では、近年注目度が高まっています。別名「カムバック制度」や「出戻り制度」と呼ばれることもあります。
海外と日本の企業文化の違い
日本ではアルムナイ制度がまだあまり採用されていないのに対し、海外では多くの企業で導入されています。その理由として、海外と日本の企業文化の違いが挙げられます。
海外の企業では実力主義が主流で、転職を繰り返しながらキャリアアップを目指していくのが一般的です。一方の日本企業は終身雇用制度を取り入れている企業が多く、退職後に企業と密に連絡を取り合うケースはほとんどありません。そのため、これまでは退職者を再雇用する制度が浸透しなかったのです。
今なぜアルムナイ制度が注目されるのか
日本でもアルムナイ制度が注目されはじめた背景として、ビジネス環境が大きく変化したことがあります。かつて日本で主流だった終身雇用制度が崩壊し始めたことや、多くの業界で人材不足が慢性化するようになったことで、退職者との関係性が見直されるようになりました。経験とスキルが豊富な退職者を人的資源と捉え、アルムナイ制度を導入する企業が出てくるようになったのです。
アルムナイ制度を有効活用するポイント
アルムナイを活用することで、企業は数多くのメリットを得ることができます。ここでは、アルムナイ制度を導入し、有効活用するためのポイントについて解説します。
退職者との友好的な関係を維持する
アルムナイ制度を導入するためには、退職者との友好的な関係を維持することが必要です。転職してキャリアアップを目指すことが一般的になってきた今、退職者を裏切り者のように扱ってしまうと、アルムナイ制度の活用は困難になります。退職後も企業と良い関係でつながりたいと感じさせるためには、戻りやすいアットホームな社内の雰囲気を作ることが重要です。
情報交換の場をつくる
退職者と企業、または退職者同士が情報交換できる場所をつくることも大切です。イベント開催やSNSのグループ機能などを活用し、コミュニケーションの機会を積極的に増やすと良いでしょう。定期的に情報交換を行っておくことで、今の企業に必要なアルムナイとつながれる可能性もあります。
再雇用を積極的に行う
アルムナイ制度を活用するには、退職者の再雇用を積極的に行いましょう。ただし、再雇用に関する制度や体制を整えておかないと、将来的にミスマッチを引き起こす可能性があるため注意が必要です。以下、雇用条件を設定するときに気を付けたい3つのポイントを紹介します。
再雇用の条件を公にする
アルムナイ制度を導入することによって、従業員の中に「退職してもすぐに戻れる」といった安易な考えを持つ人が現れる可能性があります。従業員の軽率な意識・行動を防ぐためにも「入社後3年以上勤務した社員に限る」といったように、再雇用の条件を社内で公にしておくことがおすすめです。
再雇用の受け入れ態勢を整える
アルムナイを有効活用するには、再雇用の受け入れ態勢を整えておくことが大切です。社内でアルムナイ制度に関する理解が進んでいないと、退職者と従業員との間で軋轢が生まれるリスクがあります。事前に従業員と面談を行うなど、アルムナイの受け入れに対する理解を深めておきましょう。
厚遇しすぎない配慮
アルムナイを受け入れる際は、あまり厚遇しすぎないように注意する必要があります。退職者によっては年齢やスキルが現職者より高い場合がありますが、あまりに偏った待遇は従業員の不満を招き、モチベーションの低下につながります。
アルムナイネットワークの育て方
アルムナイネットワークとは、退職者同士のコミュニティのことです。企業と退職者がつながる場所として有効で、アルムナイ制度の活用に大きく役立ちます。ここでは、アルムナイネットワークの育て方について紹介します。
退職時に進んで参加する流れをつくる
アルムナイネットワークを発展させるには、退職した従業員が進んで参加しやすくなるような流れを作っておくことが重要です。社内でアルムナイ制度についての説明会を行うなど、従業員の理解を深めておくとよいでしょう。退職時に制度の概要を再周知し、対等なビジネスパートナーとして継続的な関係を築けるとベストです。
ネットワークの存在を告知する
せっかくアルムナイネットワークを導入しているのに、従業員がその存在を知らなければ意味がありません。アルムナイネットワークの存在や活動内容を積極的に社内に周知することで、制度をより身近に感じてもらうことができます。
参加メンバーの告知体制を整える
従業員だけでなく、アルムナイネットワークのメンバーに対しても参加者の告知体制を整えておきましょう。アルムナイネットワークの交流が進み、さらなる発展につながりやすくなります。
現存するツールを積極活用する
アルムナイネットワークの育成にはツールの活用が欠かせません。各種SNSをネットワーク形成の主軸として使えば、専用コミュニティを作ったり、有益な情報を発信できたりと、運営が容易になります。また、メンバー間の交流が活発化しやすくなるのもメリットです。
アルムナイの採用事例
日本でもアルムナイ制度を採用する企業が徐々に増えてきています。ここからは、日本の有名企業のアルムナイ採用事例を紹介します。
住友商事
住友商事では、アルムナイ同士や現役従業員との交流の活発化を目的として、2019年に「SC Alumni Network(SC アルムナイネットワーク)」を設立しました。お互いのスキルや経験を共有し合うことで、事業の発展に役立てることが狙いです。この取り組みが認められ、2021年には「ジャパン・アルムナイ・アワード2021」で準グランプリを受賞しました。
ヤフー
ヤフーでは、2017年に退職者を対象としたアルムナイネットワーク「モトヤフ」を設立しました。ヤフーでは退職者を「卒業生」と呼び、外部目線から改善点を指摘してもらうなど、積極的な情報交換を行っている点が特徴です。また、モトヤフでは非公開のFacebookグループを作成し、アルムナイ同士が自由に交流できるようになっています。
アクセンチュア
アクセンチュアは元社員とのつながりを重要視しており、「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」と呼ばれるポータルサイトを設立しています。このサイトには世界中にいる約25万人の元社員が登録しており、積極的な交流が行われています。ほかにも、求人情報の検索やアルムナイとのコラボレーションを推進する機能を備えているのが特徴です。
マイクロソフト
マイクロソフトでは、世界中の退職者に向けて「Microsoft Alumni Network」を展開しており、多くのアルムナイが加入しています。このネットワークはアルムナイの再雇用だけでなく、自社製品を広げるためにも活用されています。そのほか、インターン修了生向けのアルムナイネットワークも提供しています。
電通
電通では、2014年頃から非公式のアルムナイネットワークが存在していましたが、2019年から公式のネットワーク形成が始まりました。「電通アルムナイ・ネットワーク」と呼ばれるプラットフォームが用意され、アルムナイ同士のメッセージのやりとりや近況確認、アルムナイ向けの限定情報の発信など、さまざまな機能を使用できます。
サイボウズ
サイボウズでは、自社エンジニアと交流できるイベント「Cybozu Meetup」を定期的に開催し、アルムナイとの交流や意見交換をする機会を設けています。アルムナイの貴重な意見を組み上げ発信することで、自社製品のマーケティングや採用強化などに活かしているようです。
まとめ
この記事では、アルムナイ制度の活用方法やアルムナイネットワークを育てるためのポイントについて解説しました。人材不足が課題となっている今、豊富なスキルや経験を持ったアルムナイが重宝されています。アルムナイと従業員がお互いに良い刺激を与え合えるように、企業側で体制を整えておくことが必要です。アルムナイ制度の導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。