ITSS(ITスキル標準)とは、経済産業省が策定したスキル体系のひとつです。導入することで、スキルの視覚化や人材育成に役立ちます。本記事では、ITSSの運用におけるポイントや人材育成に活かすためのコツを紹介します。ITSSを導入するか迷っている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
ITSSとは
「ITSS」とは、「IT Skill Standard」の頭文字を取ったもので、経済産業省が策定したIT人材に対するスキル体系を指します。IT人材を教育する場合にスキルの基準を示すことで、保有スキルの数値化や、弱みを把握することができます。個々のスキル評価に留まらず、人事評価にITSSを活用している企業も増えてきました。
ITSSを導入することで、専門分野の知識・技術を適切に数値化して能力を把握できます。そのため、多くのIT企業が指標として注目しています。ここでは、ITSSについてさらに理解できるように、策定された経緯や似ている指標を紹介します。
ITSSが策定された目的
ITSSが策定された目的は、効率的な人材育成や技術者の確保のための指標を可視化することです。知識や能力を測る指標がなければ、個人のスキル評価が曖昧になってしまいます。ITSSが策定された背景には、2000年頃からIT産業が急速に発展したことにあります。短時間で技術革新やビジネス環境が変化する中で、ITに関連する企業には高度なスキルを持つ人材が必要とされました。
また、日本政府も国家戦略を担うIT産業の発展を推進していたことから、高度なスキルを持った人材育成が重要視されていました。IT関連の知識・能力があるかの指標を国が明確にすることで、ITに関する知識を習得する人のモチベーション向上や、社内外での人材育成につながる指標と定められています。
UISSとの違い
UISSは、ITシステムを活用する会社や組織にとって必要なスキルや知識を整理した指標です。ITSSとの大きな違いは「対象をユーザーとしている点」です。対象が組織機能と付随する業務で、システムの企画開発から運用、廃棄までのプロセスを体系化しています。一般的に、ソフトウェアライフサイクルと呼ばれる効率的な運用の仕組みです。つまり、高度なITスキルを保有する技術者の育成を図るための指標のひとつといえます。
ETSSとの違い
ETSSは、組み込みソフトウェアの開発者にとって必要なスキルや知識を体系的に整理した指標です。ITSSとの違いは、主な対象をソフトウェア・エンジニアリング・センターなどの組み込みエンジニアとしている点です。ETSSはスキルフレームワークに特化されており、個人の特性に関する定義付けがされていません。ITにおける国際競争力を高めるエンジニアにとって、必要となる知識が網羅的に体系化されています。
ITSSで規定される7段階のレベル評価
ITSSは、あくまでもITエンジニアのスキルを測るための物差しです。ITのプロとして、テクノロジーやメソドロジ創出などのスキルがどの段階にあるかを7つに分けています。それぞれのレベル評価は以下の通りです。
7段階の入り口にあたるのが、エントリーレベル(1〜2)です。最低限の知識やスキルがあり、上位からの指示や指導があれば仕事の一部もしくはすべてにおいて、課題発見・課題解決ができると評価できます。
ミドルレベル(3〜4)はITに携わる者として、得意とする専門分野が確立された状態と評価できます。自らの能力だけで課題の発見から解決まで遂行できるレベルです。またミドルレベル(3〜4)は、自己の経験を知識化したり、人材育成においても貢献できたりと認められるレベルにあります。しかし、自身のスキル開発についてはより磨き上げる余地があるといえます。
レベル5になると、高い技術とスキルを持った人材として認められる存在と評価できます。テクノロジー・メソドロジなどを自分が主体となって創造することが可能です。ITプロフェッショナルとしての経験・実績を、自己・周囲に認められるレベルといえるでしょう。
レベル6は企業内に留まらず、社外の人にもハイエンドプレーヤーとして認識されるレベルです。テクノロジーやメソドロジを独自に創造する能力を有していると評価できます。国内において、専門分野のスキルや経験、実績のすべてを認められる存在です。
レベル7はIT人材として、専門分野の確立と世界でも通用するレベルと評価できます。先進的なサービスを開拓できる経験・知識があり「ITプロフェッショナル」の名にふさわしい能力があるといえるでしょう。
ITSSが分類している11の職種
ITSSでは、職種を次の11種類に分類しています。それぞれの職種と業務内容を解説しているので、チェックしておきましょう。
種類 | 業務内容 |
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1:マーケティング | ニーズや市場の動向を予測し、チャネルの新規開拓などの戦略の立案・実行 |
2:セールス | 顧客の課題に対して最適な提案をし、関係性を築いて顧客満足度を向上 |
3:コンサルタント | 顧客に対して助言し、IT投資などの経営判断の支援 |
4:ITアーキテクト | ハードウェア、ソフトウェア関連技術を活用し、高品質なアーキテクチャの設計 |
5:プロジェクト | プロジェクトの立案から実行、管理までの役割を完遂 |
6:ITスペシャリスト | ハードウェア・ソフトウェアに関連する技術を活用し、環境に適したシステムの設計から構築、導入までを担う |
7:アプリケーションスペシャリスト | アプリケーション開発や導入に関する専門技術を活用し、設計から保守まで実施 |
8:ソフトウェアデベロップメント | ソフトウェアエンジニアリング技術を活用し、マーケティングに基づいたソフトウェア製品の企画から開発を担う |
9:カスタマーサービス | 専門技術をもとに、顧客に適したハードウェア・ソフトウェアの導入からカスタマイズ、保守を担う |
10:ITサービスマネジメント | システム運用関連技術を活用し、システム全体の安定稼働に貢献 |
11:エデュケーション | 専門技術をもとに、研修カリキュラムなどの設計から開発、評価まで実施 |
ITSSを効果的に運用するためのポイント
ITSSの運用ポイントを明確にしておかないと、導入した意味を為さず、運用に支障をきたすおそれがあります。ここでは、ITSSを効果的に運用するためのポイントをみていきましょう。
導入目的を明確化する
ITSSはITスキルの「物差し」でしかありません。導入する際は戦略に基づき、明確な目的をもって取り入れなければ効果的な運用は難しいでしょう。例えば、ITSSを活用する目的を社員が主体的にキャリアを見通す材料にしたり、人材のスキルやレベルを詳細に把握できるベースとしてスキルマップの作成・経営計画に活用したりなど、目的を最初にはっきりとさせておくことが重要です。
運用フローをあらかじめ定める
指標であるITSSは、長期的に観測していく必要があります。人事評価・育成のために設計したものの、活用できずに使われなくなったり、現場の感性とかけ離れてしまったりするケースも少なくありません。導入前に「どのように管理していくのか」や「誰が推進責任者なのか」といった点を明確にして、仕組みを構築することが重要です。
横断的なプロジェクトとして取り組む
経営者・社員が協力して、横断的なプロジェクトとして取り組むことも大切です。経営層からのトップダウン式に導入することも可能ですが、人事や総務などはもちろん、実際に業務の前線に立つ開発・営業のメンバーも巻き込んでいかないと、途中でプロジェクトが頓挫する可能性もあります。全社で一丸となって導入に関わることで、全員が当事者意識を持って運用できます。結果として、ITSS導入による効果アップが期待できるでしょう。
ITSSを活用して人材育成するためのコツ
ITSSを活用して人材育成するためには、いくつかのコツがあります。コツを押さえないままに進めてしまうと効率的な人材育成につなげられず、ひいては経営戦略に活用できません。
中長期的な育成計画を作成する
ITスキルの取得は短期間で取り組むものではありません。中長期的な視野を持って、育成計画を作成する必要があります。ITSSは職種・専門分野ごとに必要となるスキルが項目ごとに整理されており、知識を習得していくための「研修ロードマップ」が策定されています。社員一人ひとりが「ロードマップのどこの位置にいるのか」や「期限と目標をどこにおくのか」を明確にし、必要なスキルを身に付けるための指標として使うと効率的な育成計画を立てられるでしょう。
経営戦略に沿った育成を行う
現在の人材育成の方針だけに注目するのでなく、将来の経営戦略に沿った育成を考えて計画を立てることも重要です。理想とする経営を実現するためには、能力のある人材が欠かせません。人材の獲得や育成は経営戦略の中でも重要な位置づけにあります。社員のスキルをどのように開発していくかを決める際、全社的に巻き込みながら合意形成していくよう意識してください。
まとめ
今回はITSSについて、運用のポイントや人材育成に活かすためのコツを解説しました。ITSSは、国が策定したスキル体系であり、スキルの視覚化や効率的な人材育成に役立つメリットがあります。ITSSを効率的に運用するためには導入目的を明確にし、経営者層から社員まで全員を巻き込んでいくことがポイントです。本記事を参考に、ぜひITSSの導入を検討してみてください。