ポリコレとは差別表現をなくすための考えのことです。表現の適切さに敏感な現代において、必ず知っておくべき概念といえます。しかし、ポリコレという言葉自体を耳にしたことがない方も多いかもしれません。またポリコレを意識するあまり、悪い影響につながるケースもあるでしょう。
今回はポリコレの概念について、由来や事例を交えながら解説します。企業におけるポリコレの重要性や影響、対策にも触れています。ポリコレについて把握していない方はもちろん、改めて学び直したい方もぜひ本記事の内容を参考にしてください。
ポリコレとは
ポリコレの正式名称は「ポリティカル・コレクトネス」です。政治的観点での正しさを意味しています。中立的な表現により、政治的・社会的な正しさを示すことがポリコレの特徴です。特定のグループにおける差別や誤解を生まないために必要な観点です。
ポリコレという言葉の由来
ポリコレは、1990年代にアメリカを中心に広まってきました。元々の意味である「政治的観点での正しさ」を重視する表現として、多くの方に利用されていました。また、人種・ジェンダーといった社会的な差別を防止するためにも、ポリコレの概念が重視されています。人種やジェンダー差別は、政治的観点での知識不足が原因で発生します。そのため、ポリコレ本来の意味である政治的観点と社会的観点は、密接につながっているといえます。
ポリコレの具体的な事例
先ほども触れたように、人種やジェンダー差別につながらない表現がポリコレの概念に該当します。肌の色を表す言葉や、性別による格差を連想させる表現は、ポリコレが示す具体例です。
以下に挙げる職業の名称も、ポリコレの影響を受けています。
従来の表現 | ポリコレによる変化 |
---|---|
保母 | 保育士 |
看護婦 | 看護師 |
スチュワーデス | キャビンアテンダント |
カメラマン | フォトグラファー |
ビジネスマン | ビジネスパーソン |
また、敬称が「さん」で統一されるようになったのも、ポリコレの影響です。女子学生の制服がスカートのみでなくなったことも、ポリコレを通じた性別による差別を解消するための施策といえます。
ポリコレによって発生した社会的な問題
一見するとメリットの多いポリコレですが、多くの社会問題を引き起こしていることも事実です。主に、以下の問題が発生しています。
- 言葉狩り
- メディアや政界への圧力
- ポリコレのスラング化
- ポリコレ疲れ
ここでは、ポリコレによる社会的な問題について詳しく解説します。
言葉狩り
ポリコレにより言葉の重要性が問われるようになった現代。しかし、ポリコレを意識するあまり使用できる言葉の不自由さを感じる方もいます。ポリコレを盾にして自分を守ろうとする考えの人間もいるため、一概にメリットばかりとも言い切れません。従業員に指導をしたくても、差別的な発言をしてしまわないかと不安に駆られる上司も少なくないでしょう。
メディアや政界への圧力
近年、メディアや政界の発言が取り上げられ、ニュースとして駆け巡ることは珍しくなくなりました。そのためメディアや政界は、いわゆる「不謹慎発言」を恐れて報道・演説をします。その結果、報道や政治の自由度がなくなり、受け身のような発信ばかりになってしまいます。「単に誰かを叩きたい」と考える方も残念ながら増えているため、メディアや政界が本来の機能を果たせないままでいることが現状です。
ポリコレのスラング化
行き過ぎたポリコレにより、「ポリコレ棒」という言葉が生まれました。例えば日常会話の中で「看護婦って大変だよね」と発言したとします。それを聞いた男性看護師が「男の看護師だって大変だ」と怒りを表したらどうでしょうか。「看護婦」という発言にそこまで深い意味を込めていなくても、差別発言として捉えられてしまいます。
このように、現状では少しでもポリコレに触れる言葉を口にしただけで、誰かを叩く風潮も存在します。「ポリコレを使って誰かを叩く棒」という意味で、ポリコレ棒という言葉が生まれました。
ポリコレ疲れ
上記で触れたポリコレ棒などを含め、ポリコレに対するアンテナを張り過ぎて疲れてしまうこともあるでしょう。発言の自由がなくなったと、現状に息苦しさを感じる方も少なくありません。ポリコレはあくまで注意すべき「観点」であり、強制力のあるものではないことを自覚する必要があります。
企業におけるポリコレの重要性
男女の格差を感じさせないような言葉に意識を向けることの多いポリコレ。意識することで、多様な人材を活かし、その能力が発揮できるようにしていくダイバーシティ経営の実現に近づきます。ダイバーシティ経営を実現できれば、事業拡大や雇用獲得の視野が広がります。今後の企業経営や発展にも大きく関わるため、ポリコレの概念はビジネスパーソンこそ覚えておくべきといえるでしょう。
ポリコレが企業に与える影響
ここでは、ポリコレが企業に与える良い影響・悪い影響について解説します。
良い影響
ポリコレを意識することで、ダイバーシティ経営を実現できます。多様性が注目される昨今のビジネスシーンにおいて、ダイバーシティ経営の実現は必要不可欠です。多様性を重視したダイバーシティ経営において、人種や性別に固執することは厳禁といえます。ポリコレを意識し、人種・性別の垣根を超えた企業へと革新させましょう。
また、ポリコレを意識したダイバーシティ経営を進めることは、従業員の定着や獲得、アイデア創出にもつながります。社外からの評価も高くなるため、企業価値を高めるうえでもポリコレが重要だといえます。
悪い影響
ポリコレを軽視すると、ふとした発言で炎上する可能性があります。一度炎上するだけで企業としての信頼感がなくなる時代です。ポリコレを意識し、企業価値を下げない発言を心がけましょう。
また、ポリコレを意識するあまり身動きが取れなくなることも、企業にとっては悪影響になります。あくまで概念であり、法で定められた施策ではありません。企業価値への影響を加味しながら、適度に意識しましょう。
企業が実施すべきポリコレ対策とは?
ここでは、ポリコレ対策として企業が実施すべき施策について解説します。
グローバル対応
近年はダイバーシティ同様、人材のグローバル化も注目されています。国籍を問わない採用を進めることで、ポリコレに関連する人種差別から遠ざかるでしょう。
ハラスメント防止
ポリコレの観点から、ハラスメント行為を受けたと告発する事例も増えています。ハラスメントの概念を洗い出し、ポリコレの観点でどう解消していくべきか、企業全体で考えることが大切です。
待遇の確認
既存従業員の待遇が、ポリコレに影響していないかどうか確認しておきましょう。例えば、女性であるために給与が低かったり、外国籍であるためにフロントに立てなかったりといったことが挙げられます。人種や性別の垣根を取り払い、平等な業務内容・評価につながるよう意識してください。
求人内容の再考
求人内容に差別が含まれていないか、見つめ直す必要があります。まずは男女雇用機会均等法が取り入れられているかどうか確認しましょう。また、保母・スチュワーデス・看護婦など、性別を感じさせる表現がないか見直すことも大切です。
面接内容の調整
面接の質問内容に、出自や個人の思想などを絡めたものを入れ込まないようにしましょう。求職者側も、企業の姿勢や対応をよく見ています。近年の採用活動は、求職者が企業を選ぶように変化しています。差別的な内容が組み込まれた面接では、入社したいという意欲は湧かないでしょう。
まとめ
ポリコレは、さまざまな観点での「差別」をなくすために重要な観点です。ダイバーシティ経営の重要性がとわれる昨今において、多くの企業が意識すべき観点といえるでしょう。差別をなくすことは、ビジネスパーソン一人ひとりの自由が重視される環境の実現に繋がります。とはいえ、ポリコレを意識し過ぎてがんじがらめになることは本末転倒です。自社に差別を連想させる要素が残っている場合は、あくまで企業を「よりよくするための施策」としてポリコレを意識してみましょう。