多くのビジネスパーソンにとって「稟議」は、切っても切れない制度のひとつです。稟議をどれだけスピーディーに通すかで業務の進捗具合が変わるといっても過言ではないでしょう。ただし、よく聞く言葉にもかかわらず、その意味や稟議書の作成ポイントなどを把握できない方は多いようです。当記事では、稟議の概要や申請が通りやすい人の特徴、稟議書作成時のポイントを解説します。
稟議とは
稟議とは、自分の権限では決定できない事を書類に起こしたうえで上層部に回覧し、承認してもらうための手続きです。稟議の際に作成される書類を「稟議書」と呼びます。
稟議と決裁の違い
稟議と決裁の大きな違いは「プロセスの有無」です。
稟議の場合は、各担当者の確認というプロセスを踏みながら承認を得ます。一方、決済は最終判断を下すものであり、プロセスは関係ありません。
そのため、同じ承認を得る場合でも稟議書を決裁権限者に直接渡し、承認される場合は稟議ではなく「決裁」となります。意思決定を迅速に行いたい企業や規模が小さい企業は決裁のみである場合も多く、企業の考えや判断によって差があります。
稟議が必要となる場面
稟議が必要になるシーンは一般的に以下が挙げられます。
- 人事採用
- 事務用品・備品の購入
- システム・サービスの導入
- 外部企業との契約締結
- 出張の申請
自分の権限では決定できない内容の範囲は企業によって異なるため、稟議が必要となるシーンに明確な定義はありません。ただし、一般的に実行にあたって費用が発生するなど「社員が一人で決定できない」、「会議を設けるほどでもない」といった内容に対して稟議が必要となるケースが多いでしょう。
ちなみに、稟議書は日本企業特有の文化で、意思決定のスピードを重視する海外企業では基本的に採用されていません。
稟議の種類
稟議の種類としては主に以下4つが挙げられます。
- 契約稟議
- 購買稟議
- 採用稟議
- 接待交際稟議
「契約稟議」は、他社との取引契約を締結する際に行う必要があります。価格や条件、日程、担当者などについて目を通してもらいます。
「購買稟議」は、社内で使用する備品などを購入する際に行う必要があります。パソコンやITツールなどの高額備品や、日常業務で使用する備品などを購入する際に承認を得るようにします。
「採用稟議」は、新卒・中途採用をはじめ、従業員を新しく採用する際に行います。企業が求める人材なのか、採用条件は適切かどうかなどについて承認を得るようにします。
「接待交際稟議」は、取引先との会食や贈答品の購入などの接待費用を申請する際に行います。金額が一定以上を超えた際に稟議が必要となる場合がほとんどです。金額の上限は企業によって異なるため、稟議が必要となる基準額を確認しておきましょう。
稟議の申請方法・手順
稟議の申請方法・手順は主に次のような流れです。
- 申請者が稟議書を作成
- 稟議書の番号取得
- 稟議書を低い役職から高い役職の順で閲覧
上記の申請方法や手順は、あくまでも紙をベースとした稟議の内容です。近年では、多くの企業で業務効率化を目的としてITツールが導入されています。そのため、稟議の申請もデジタル化が増えており、申請方法も企業ごとにさまざまです。
<h2>稟議が通りやすい人の特徴</h2>
稟議が通りやすい人には決まった特徴があります。ここではどのような特徴があるのか詳しくみていきましょう。
物事の要点をまとめるのが上手い
稟議書には、要点がまとまった短い文章が好まれます。物事の要点をまとめるのが上手い人は稟議も通りやすい傾向にあります。
一方、詳細な説明をしようとしてまとまりのない長文をだらだらと書いている稟議書は読みにくいものです。補足説明や資料を求められたり、差し戻されたりするケースも少なくありません。
経営陣からの信頼が厚い
上司が部下に対して仕事を任せようとする際、信頼のある人を選ぶのは当然といえます。そのため、経営陣からの信頼が厚い人は、稟議が通りやすい傾向にあります。稟議の通し方や稟議書の内容も大切ですが、まずは信頼や実績を積み重ねていくことが大切です。
事前の根回しが計画的かつ緻密
稟議を通すには、それなりの時間と労力が必要です。そのため、関係者や上層部への根回しも欠かせません。関係者や上層部の立場に立って課題を見つけたり、様子を気にかけたりしながら事前に信頼を得るような動きや立ち振舞が求められます。
データに説得力がある
データに説得力があると、稟議が通りやすくなります。例えば、 目標達成のために実行すべきプロセスが適切に実施されているかを数値化して評価する「KPI」や、施策に費やしたコストに対して得られた効果を指す「費用対効果」などを数値で示すとよいでしょう。
ただし、数字を使ったとしても「3ヵ月で売上を80%アップする」や「半月で案件を10件受注できる」といった現実性に欠ける内容では説得力が生まれません。実現可能な数値を用いて、客観的に判断できるデータを用意しましょう。
熱意を伝えられる
多少プレゼン内容がほかの人より劣っていても、上司に熱意が伝われば仕事を任せてみようと思ってもらえることも多いものです。
一方、過去の実績、稟議書の内容などが秀でていても、熱意が伝わらなければ稟議が通らない可能性もあります。自分の熱意が決裁者に正しく伝わるよう、工夫することが大切です。
稟議書を作成する際に押さえるべき4つのポイント
稟議書の内容によっては、稟議が通りにくい可能性があります。稟議を通りやすくするためには、ポイントを押さえて作成しなければなりません。ここでは、稟議書の作成において押さえておくべきポイントを詳しくみていきましょう。
選定理由や必要性を明確にする
決裁者は稟議を起こした理由やその必要性を知りません。例えば、採用において面接者の中から採用する人材を選んだとしましょう。
この時「過去に同じ業界で働いていた」や「業務で必要とする資格を保有している」など、採用したい理由がないと、決裁しようにも判断ができません。稟議の理由や必要性を明確にし、正確に伝えることが重要です。
導入コストや費用対効果を数字で示す
多くの企業では、期首に当期の予算を設定します。ただし、稟議を通したい案件が予算に含まれていない場合、金額次第では資金繰りに影響してしまいます。
そのため、価格表や見積書を添付して導入にかかるコストを示すとともに、どれだけの費用対効果が見込まれるかも明記しなければなりません。
また、予測している費用対効果を得られなかった場合の損失額や撤退ラインなども記載しておくと、承認者の判断材料として役立てられるでしょう。
導入時期を明らかにする
稟議が通った後の導入時期も明らかにしましょう。
導入時期が分かればいつ頃支出するのかも把握できるため、費用面の調整もしやすくなります。設備などの導入であれば「購入予定日」、採用であれば「入社予定日」などが導入時期にあたります。
また、有効期間の過ぎた見積書に記載された導入時期は当てになりません。稟議を通すための期間も考慮し、場合によっては有効期間の延長や再見積りも依頼しましょう。
リスクと対処法を事前に示す
稟議の内容に対するリスクと対処法も事前に示しましょう。決裁者が稟議を承認するということは、その案件の責任を決裁者が負うということです。
そのため、稟議書を作成する際は決裁者が懸念するであろうリスクを先に洗い出し、できれば対処法までを記載しておくと稟議が通りやすくなります。また、その対処法に対するエビデンスを示し、より正確な内容を示すと信頼を得られるはずです。
まとめ
稟議は日本企業特有の文化です。起案者から承認決定者に稟議書が回覧されて承認していく当制度は、無用な会議を減らすために有効な方法のひとつです。
ただし、稟議書の内容によっては作り直しや差し戻しを指示されるケースもあり、多くの時間を要する恐れがあります。
スムーズに稟議を通すためにも、経営陣からの信頼を普段から得るようにして、事前の根回しなどを行いながら、ポイントを押さえた稟議書を作成する必要があります。今回紹介した稟議書作成のポイントなどを参考に、ぜひ申請が通りやすい稟議書作りを心がけてみてください。