求人情報を見た際、「OJT」というワードを目にする方は多いでしょう。実際、OJTの実施事業所は増加傾向にあり、厚生労働省が公表した「令和元年能力開発基本調査」によれば、正社員に対してOJTを実施した事業者は約64%にのぼると発表されています。
企業の取り組みとして一般化しつつあるOJTですが、どのようなものなのか正しく把握していない方が多いかもしれません。この記事では、OJTの概要や実施する目的・効果、OJTを成功させるポイントを解説します。
OJTとは
「OJT(On the Job Training)」とは現任訓練とも呼ばれ、新人に必要な知識・スキルを先輩社員や上司がトレーナーとなり、実務的に指導するトレーニング方法です。アメリカでは第一次世界大戦時代に始まったとされ、日本には第二次世界大戦戦後の高度経済成長期に入ってから普及しました。
OJTを実施する目的
OJT実施の主な目的は「新人を即戦力として育成すること」にあります。マニュアルや集合研修だけでは基本知識しか習得できていません。また、学習定着率も高くなく、研修効果を実務レベルで発揮するには時間がかかります。
しかしOJTであれば、OJT担当者である先輩社員や上司の指導・フィードバックによって実務的にトレーニングできるため、効率的に教育することができます。
OFF-JTとの違い
OFF-JT(Off The Job Training)とは、特別に時間や場所を設け、外部セミナーなどで教育していく方法です。OJTとの違いとして「教育担当者」の存在が挙げられます。OJTは先輩社員や上司など社内の人間が行うのに対して、OFF-JTは外部のトレーナーや講師が行います。
また、OJTは実務形式によるアウトプットが主体であるのに対して、OFF-JTは知識を中心としたインプットが主体となる点も大きな違いです。
OJTに向いている業種・職種
OJTに向いている業種・職種は、マニュアルに沿って対応できない状況が多く発生する仕事です。営業職・接客業・サービス販売など、顧客対応を行う業務全般は特にOJTに適しているでしょう。レジ打ち・品出し・事務作業・製造といったルーティン業務はマニュアルに落とし込みやすく、OFF-JTで試行錯誤しながらやり方を覚えていく研修が適しています。
一方、接客やクレーム対応といったイレギュラー業務が発生しやすい職種では、仕事の手順や優先順位が目まぐるしく変わるため、ルールに従って仕事を続けることが困難です。予期せぬトラブルが起きた場合は現場の判断で臨機応変に動くことを求められるので、教育担当者と一緒に業務に取り組むことでスムーズに仕事を覚えられます。
OJTを実施するメリット
現在、日本企業の多くがOJTを取り入れています。その理由には、OJTならではのメリットが強く関係しています。ここでは、メリットごとの詳しい内容をみていきましょう。
即戦力人材を育成できる
OJTは実践的なプログラムを通じ、先輩社員や上司の指導を受けながら研修を受けることができます。そのため、座学のみの研修よりも新人は試行錯誤しながら学習できるため、経験やスキルの定着力が強く、効率的に即戦力人材を育成できます。
個人の理解度や適性に合わせやすい
一般的な研修の場合、個人の理解度や適性に関係なく一律にトレーニングが進められるため、習熟度にバラつきが生じやすいという課題があります。一方、OJTは個人の理解度や適性に合わせ、柔軟に研修内容やスピードを変更することが可能です。一人ひとりに合わせてトレーニングできるため、効率的に人材を育成できるでしょう。
教える側の成長も期待できる
何も分からない新人に業務を教えるためには業務への深い理解はもちろんのこと、どのように説明したら理解しやすいのかを考える必要があります。そのため、OJTの実施は先輩社員や上司の業務理解度や指導スキルも培われ、新人だけでなく教える側の成長も期待できます。
OJTを実施する際の注意点
運営方法や体制次第ではOJTのメリットを十分に得られない可能性があります。ここではOJTを実施する際の注意点についてみていきましょう。
効果にバラツキが生じやすい
OJTを担当するのは先輩社員や上司であることが一般的です。そのため、経験やスキルの差が出やすく、その結果として効果にバラつきも生じやすくなります。指導スキルがない場合は、バラつきや指導の遅れが顕著に現れるため、OJTの効果を一定に保つためにはOJT担当者の育成が欠かせません。指導マニュアルなどを作成し、指導しやすい環境を全社的に構築する必要があります。
実務に影響を及ぼす可能性がある
先輩社員や上司がOJT担当者になるということは、OJT期間中はリソースを教育に割かなければなりません。そのため、人手不足に陥っている場合や指導体制が十分に整備されていない状態だと実務に影響を及ぼす可能性があります。
人事・教育担当者のフォローが必要になる
もし、実務に影響を及ぼすという理由からOJT期間中も業務量をそのままにしていると、OJT担当の先輩社員や上司は仕事量が増えて、自分の仕事に追われる可能性があります。その結果として新人が放置されてしまい、効果を得られないというケースも少なくありません。多忙によって新人が放置されないように、人事・教育担当者がフォローできる体制の整備が欠かせません。
OJTを成功に導くためのポイント
OJTを成功に導くためには、いくつかのポイントを意識して取り組む必要があります。ポイントを押さえているかどうかで、学習効果に大きな差が生じます。ここでは、ポイントごとの詳しい内容についてみていきましょう。
トレーニングの目的・目標を明確にする
着地点が曖昧だと、トレーニングによる高い効果を期待できません。「電話対応スキルを身に着ける」や「コミュニケーションを円滑化させる」といったように、トレーニングの目的・目標を明確にし、OJT担当者と新人が共有する必要があります。
客観的な評価基準を設ける
客観的な評価基準を設けておきましょう。OJTの失敗として多いのがOJT担当者によって評価が異なるというものです。同じようなトレーニングを実施しても担当者によって指摘が異なると、教わる側は大きな負担となります。また、場合によっては現場の混乱を招きかねません。
そのため、評価には基準を設けてOJT担当者全員が共有するといった共通の価値観が必要になります。
反復性の高い練習を盛り込む
トレーニングを一度受けただけでは単に覚えただけに過ぎず、実務レベルで力を発揮するまでにはそれなりの時間を要します。そのため、単発のトレーニングを淡々と行うのではなく、反復性の高いトレーニングを盛り込むことが大切です。
実技を意識した研修プログラムを組む
研修プログラムはワークショップやケーススタディなどを組み込み、実技を意識しましょう。
「ワークショップ」とは、トレーニングを受けた人々が自身で行動したり、考えたりしながら学ぶ研修の方法で、グループディスカッションなどが挙げられます。
「ケーススタディ」とは、過去に発生した事例や起こりやすい事例などをテーマとして挙げて、事例の課題点などを分析し、解決策を考える研修方法です。
これら実技形式の研修プログラムを上手く活用すれば学習定着率がアップし、研修効果を高めることができます。
教育担当者も自己評価と改善を行う
新人だけでなく、OJT担当者も自己評価と改善を行うようにしましょう。OJT担当者の上司もしくは管理者が主体となり「成功や失敗の事例」や「学びとなった出来事」などを振り返る機会を設けてみましょう。
また、OJT担当者が自分で振り返る場合、評価基準やOJT研修テキストを見返していくと気づきを増やすことができるでしょう。
まとめ
OJTは先輩社員や上司が担当者となって行われる実務形式の研修です。アウトプットが主体の研修であり、新人は自身で試行錯誤しながらスキルを習得できます。
そのため「即戦力人材を育成できる」や「個々人の理解度や適性に合わせやすい」といった他の研修にはないさまざまなメリットが得られるでしょう。
一方、OJTの実施体制が整備されていないと「効果にバラツキが生じやすい」や「実務に影響を及ぼす」といった事態になりかねません。OJTを成功に導くためにも、紹介したポイントを押さえ、適切に実施していきましょう。