「アクチュアリー」は金融分野における数理業務を担当します。アクチュアリーという仕事があることは知っていても、具体的な業務内容やなり方まではわからない方も多いのではないでしょうか。
今回は、アクチュアリーの仕事について、転職に関する知識も交えて紹介します。アクチュアリーに向いている人の特徴も紹介しているので、転職活動を進めるうえでの参考にしてください。
アクチュアリーとは
生命保険や損害保険、企業年金に関する数理業務がアクチュアリーの仕事です。いわゆる「金融分野」における、保険料率や支払保険金額の算定などを担当します。
アクチュアリーは、日本語に訳すと「保険数理士」のことです。そのため、保険に特化した仕事だと認識されがちです。しかし近年では、保険や年金以外にも、企業の資産管理に関わることも増えています。そのため、より専門的な技術・知識が求められるようになりました。2020年の段階では、アクチュアリーと認定される、日本アクチュアリー会の正会員が1,800名ほどしかいなかったことからも、その専門性や難易度がわかります。
アクチュアリーが主に関わる分野
ここでは、アクチュアリーが主に関わる分野や、活躍する場について紹介します。
生命保険
生命保険分野では、企業の健全性を保ちつつ、保険金の支払い能力を確保するためにアクチュアリーが活躍します。保険数理的理論を含めた専門知識を活かし、企業における収支分析・責任準備金の計上・保険料の算定を行うのが、生命保険分野でのアクチュアリーの仕事です。
損害保険
事故や災害による経済的損害を補償する損害保険の領域においても、アクチュアリーが関わります。損害保険分野においては、事故・災害の発生頻度や損害率を、保険数理を用いて分析するのが主な仕事です。また。商品に関する保険料の設定やリスク管理も担当します。
年金
年金分野においては、従業員を対象とする「企業年金制度」を取り扱います。企業年金を健全に活用するために必要な財政検証や、年金制度そのものの設計・掛金率の計算などもアクチュアリーの仕事です。また、企業年金に関する環境・顧客ニーズに関するコンサルティングなどを行う場合もあります。
信託銀行
アクチュアリーが活躍する場として、信託銀行も挙げられます。先に挙げた生命保険や年金に関する部門を中心に、制度の運営やコンサルを担当するのが信託銀行に在籍するアクチュアリーの仕事です。
官公庁
アクチュアリーは企業や団体だけではなく、高いレベルの専門知識を活かして官公庁に所属して働くこともあります。官公庁でも、ここまで紹介した部門に関する仕事や、後述するリスクマネジメント分野でも活躍します。
リスクマネジメント
数理的な知識を活かして、企業のリスクマネジメント領域を担うのもアクチュアリーの仕事です。近年、業務を遂行するうえでのあらゆるリスクに対し、組織全体で包括的に評価し、企業価値を最大限に高める「ERM」を意識する企業が増えました。アクチュアリーが持つ専門的な知見は、ERMの分野でも活用できることでも注目されています。
アクチュアリーになるには?
アクチュアリーになるには、日本アクチュアリー会が実施する資格試験に合格し、正会員として認定される必要があります。資格試験の全科目に合格し、初期教育である「プロフェッショナリズム研修」の受講が、アクチュアリーになるための最低条件です。
アクチュアリーの資格試験は、以下で構成されています。
- 第一次試験(基礎科目:5科目)
- 第二次試験(専門科目:2科目)
合計7科目で構成されており、全科目合格するまで最低でも2年はかかるといわれています。ちなみに、一次試験のうち1〜4科目に合格すれば研究会員、一次試験すべてに合格すると準会員、二次試験に合格すると正会員になり、ようやくアクチュアリーとなることができます。
アクチュアリーを目指すうえで知っておきたい知識
さまざまな企業から求められるアクチュアリーへの転職を目指す方も多いでしょう。ここでは、アクチュアリーに転職するうえで押さえておきたい知識を紹介します。
給与相場
アクチュアリーの収入は、転職する企業や自身の会員の種類によって変動します。およそ900〜1,200万円が収入の相場とされています。研究会員の場合だと、500〜600万円からスタートすることが多いため、一般職と大差はありません。一旦研究会員になり、アクチュアリーとしての経験を重ねながらステップアップして、収入も上げていくことがスムーズかつ確実な手段です。
求められるスキル
アクチュアリーを目指すうえでは、資格試験に合格することとあわせて、以下のスキルが必要です。
- 数学に関する知識:指数関数・対数関数・三角関数・数列・微積分・線型代数などを活用するため
- データ分析能力:人口調査・事故率・気象情報・政治・経済動向などを統計学により分析する必要があるため
- 英語力:欧州での歴史が深い職業であり、海外で発信されている情報の収集や海外研修が必要になるため
自身を客観視し、アクチュアリーの適性があるのか判断したうえで転職を検討すべきです。
将来性
アクチュアリーは資格取得難易度が高いため、その分年収やキャリアパスなどの視点で将来性が期待できます。昨今の市場においてアクチュアリーの需要が高まっていることから、今後も成長が続くことが期待できる業界です。
アクチュアリーの適性がある人に共通する能力
ここでは、アクチュアリーに向いている人に共通する能力を紹介します。アクチュアリーを目指すうえで必要なスキルでもあるため、覚えておきましょう。
責任感
保険や年金など、人々の生活における重要な要素に関わるのがアクチュアリーの仕事です。そのため、人の一生を左右することへの責任感を持たなければ、アクチュアリーは務まりません。目の前にある数字だけでなく、保険や年金の背景にある顧客の「暮らし」を想像する意識が大切です。
コミュニケーション能力
アクチュアリーは、企業に所属して活動することがほとんどです。そのため、顧客はもちろん社員の間でも円滑にやりとりを進められるコミュニケーション能力が求められます。アクチュアリーが関わる領域は専門知識を持って説明する必要があるため、営業担当の代わりに表へ立つこともあります。難しいことをわかりやすく説明し、取引を成功させるには、高いコミュニケーション能力が必要です。
柔軟性
アクチュアリーには、社会の動向や自社の利益など、さまざまな「変化」へ柔軟に対応することが求められます。時には一般消費者の目線で分析することも必要になるため、コミュニケーション能力と並ぶ重要な能力です。自分の考えに固執し、ニーズを捉えられなければ意味がありません。変化に対応し、その都度適切な判断と分析をすることが、アクチュアリーに必要な能力です。
数学的素養
アクチュアリーの基本業務は、数理を用いた複雑な計算です。そのため、数学的素養を備えておくことが最低条件といえます。ただし、必ずしもハイレベルな数学的素養が必要なわけではありません。事実、文系出身のアクチュアリーもいます。ただし、確率や統計に関する知識がないと、試験を突破することは難しいようです。
まとめ
今回は、アクチュアリーの業務内容や資格試験について解説しました。保険や年金など、人の一生に関わる重要なことに携わるのがアクチュアリーの仕事であり、やりがいです。年収や将来性が期待できることも含め、アクチュアリーを目指す方は多いでしょう。ただし、ハイレベルな専門知識が必要となるため、やりがいだけではアクチュアリーとして活躍できないのが実情です。
アクチュアリーを目指す方は、本記事で紹介した内容をぜひ参考にしてください。求められるスキルや適性を客観視したうえで、アクチュアリーになるための転職活動を進めましょう。